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――煙草の匂い。  彼は煙草を吸う。吸い始めたのは就職して少し経った頃からで、それからはいつも薄らと煙草の匂いを漂わせている。私も、煙草の匂いは好き。煙草の匂いがすると安心する。  でも、煙草は嫌い。医師やコメンテーターが、煙草は百害あって一利なし、とテレビで言っているのを見たり、学校での講話で肺が真っ黒になった写真を見せられながら、体に毒だという話をされたりして、良くないものであると言い聞かせられてきたから。他にも理由はあるけど、煙草が体に悪いからとか、大体理由は同じ。だから彼が煙草を吸い続けたら、煙草が彼の命を奪っていってしまう気がして怖かった。  彼が煙草を吸い始めて少し経った頃、彼と煙草について話をした。私も煙草を吸いたいとか、煙草はこれからも吸い続けるのか、とか。  私も煙草を吸いたいと言ったら彼はそれを止めた。多分むせて吸えないよ、と笑いながら言っていた。私だって煙草ぐらい吸えると強気に彼に言ったことを覚えている。まあ彼の言葉通り、私はむせて吸えなかったけど。  止める気はないのかという問いの答えはノーだった。もう既に、習慣化してしていた。でもやっぱり、煙草には良いイメージなんて無かったから、彼には煙草をやめて欲しかった。  私も煙草の匂いがすると安心する。でも、彼が隣にいることと、煙草の匂いがすることのどちらかを選ぶとするなら、考えるまでもなく、答えは明確だった。何度も彼に煙草をやめてほしいと伝えた。でも、彼は煙草をやめてはくれなかった。
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