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 煙草が嫌いな理由のひとつに、叔父さんの存在があった。小さい頃から私の面倒を見てくれた叔父さん。叔父さんと遊びたい時、雷が怖い時、独りで寂しい時、電話一本ですぐに駆けつけてくれた。両親が仕事で忙しくても全く寂しさを感じなかったのは、叔父さんのおかげだと思う。  そんな叔父さんは、いつも煙草を口にくわえている、所謂ヘビースモーカーだった。  煙草の匂いが安心するのは、大好きな叔父さんからいつも煙草の匂いがしたからという理由もあるかもしれない。  でも、叔父さんは私が小学生の頃に死んでしまった。死因は肺癌。煙草の煙が大きな原因だった。  煙草が叔父さんの命を奪った。  煙草が、叔父さんを天国に連れていってしまった。  子供の頃の私にはそうとしか考えられなかった。それから私は煙草が嫌いになった。叔父さんとの記憶にも、必死に蓋をした。でも煙草の匂いだけは、体に染み付いていたみたいで、嫌いにはなれなかった。  隣に座る彼が灰皿の上で煙草の灰をトントンと落とす。ふわりと昇る煙草の煙を大きく吸い込みながら、私は目を閉じた。
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