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 煙草の煙には、主流煙と副流煙の二種類があるらしい。煙草を吸う本人が吸い口から吸い込む煙と、煙草の灰が崩れていく方から昇る煙のふたつ。毒性が強いのは、灰が崩れていく方から昇る副流煙だとテレビで見た。  それなら、とそのテレビを見ていた時に私の頭の中にある考えが過った。  副流煙を吸えば、彼よりも早く死ぬことが出来るかもしれない。  彼は煙草をやめようとはしない。私は煙草が吸えない。このまま彼が煙草を吸い続けて死んでしまうくらいなら、私は副流煙を吸って先に逝ってしまいたい。私が死んだ後、彼は後悔すればいい。煙草をやめておけば良かったって、思えばいい。いや、思ってほしいと思った。  多分これは私からのささやかな復讐。私の方が先に死んで、彼も後から後悔すれば私にとって一石二鳥。我ながらこんな考えは普通じゃないと思う。はっきり言って歪んでいる。  落ち着いて考えてみても、彼を残して逝きたいなんて考えは酷いとも思うし、幸せに生きているうちから死のことを考えながら過ごすなんて、少し勿体ないとも思う。  私みたいな考えの人より、長生きしたいとか大事な人とずっと一緒にいたいなんて考える人がきっと多い。恋人がいるなら尚更。  でも私は死が怖い。それも自分より、人の死の方が。私はもう、好きな人を失いたくない。こんなことを考えているなんて、私は叔父さんの死を過去の出来事にすることが出来ていないのかもしれない。小さかったあの頃からずっと私は弱いまま。  だから私は毒だと知っていても、喜んで煙を吸う。
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