3人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
「あ、あの。ぼ、ぼ、僕とお付き合いしてください!!」
そう言った彼の耳が、月明かりの下でもわかるぐらいに真っ赤になっていて。
ーー食べたい。
不意にそんな衝動に駆られる。
福耳のくせに上のほうは厚みがなくて。
そんなに大きくはないけれど、立ち耳のせいか程よく主張されていて。
何よりもその輪郭がとにかく綺麗で、今まで出会った誰よりも好みの耳だった。
緊張したり、照れたり、ちょっとしたことですぐに赤くなるこの耳が可愛くて。
「えっ、あっ、あの!?」
気がつくと私は彼の左耳に手を伸ばしていた。
ーーあぁ、気持ちいい。
くすぐったいのか、逃げるように身を捩ろうとするけれど、私はもう片方の手も伸ばして彼の両耳を捕らえる。
想像よりもはるかに触り心地がいい。
輪郭をなぞるようにゆっくりと上部のカーブに指を這わせると、なんとも言えない馴染む感じがして、何度も何度も往復してしまう。
熱くて蕩けてしまいそうな耳たぶを、親指と人差し指で摘まむと吸い付いてくるようで、これまた何度も何度も触らずにはいられなかった。
もはや耳だけでなく顔も首すらも真っ赤にして、ぎゅっと目を瞑って耐える姿に、身体の奥のほうからゾクゾクとしたものが湧き上がってくる。
“満月の夜には魔性が宿る”
映画か何かのセリフが頭をよぎった。
彼の向こうには大きな大きな満月があって。
あぁ、そうか。
だからこんなにも大胆に、欲求に正直に、身体が動いてしまうんだ。
「あ、の。もう、限界です……」
ーーあぁ、私も限界。もう我慢できない。
「うわっ」
私は勢いよく彼に抱きついた。
背が低くて私とそんなに変わらないから、丁度目の前に、耳がある。
少しだけ背伸びをして、美味しそうな耳たぶに唇を寄せた。
「ひゃっ」
まったく。いちいち可愛い反応をするんだから。
「いいよ、付き合おうか」
するりと言葉がこぼれ落ちた。
「この耳、一人占めさせてくれる?」
もう一度耳たぶに口付けると、一呼吸おいてから彼は何度も何度も頷いてくれたんだ。
fin
最初のコメントを投稿しよう!