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「、、、なぁ、キセ」
ゆっくりと歩み寄り、後ろから腕を引き上げた。
「はい。 、、、え?」
振り返らせたついでに指先で顎を持ち、
「お前、『現場の前に土地を鑑ろ』って言葉を知ってるか?」
キセの鼻に口がつくほど顔を近付け、声を落として威圧する。
「は、初めて聞きますが」
「俺はお前がどこから来たのか知らない。
が、花園街に足を踏み入れたのが今日 初めてならば、お前にこの街の土地鑑は まだない。、、、違うか?」
「その通りです」
「と、言うことはだ。
身近で殺しや放火があったとしても、お前は自分が住んでいる街の、どこに何があるのかも分からない中で捜査をすることになる」
「は、い」
「事件を抱える前に 先ずは街に溶け込み、土地を知る。
刑事を目指す者にとって最も重要な任務だ。
と俺は思う」
「な、なるほどですね」
「その重要な任務を果たし、善良な住民を守ることが、、、。
できるか? お前に」
小柄な身体をドアに追い込み、片手を着いて囲った。
「街に溶け込み、、、善良な住民を、守る」
「そうだ。
決して簡単な事ではないが」
「やり、ます。、、、い、いえ」
「どうだ?」
「やらせて下さい!」
俺を見上げる前髪の奥の大きな目は光を生み、大真面目に声を上げた。
「よし任せた。
お前のバイト先は俺が手配してやるからな」
「は、、、」
呆気にとられるキセから離れ、早速スマホを手にアポ取りのメッセージを打ち込む。
「、、、バイト、ですか?」
「そうだ。
街を知るにはその土地に親しまれ、長く営業してる店に潜り込むのが最も手っ取り早く、且つ確実だ」
「ああ、、、。
なるほどですね。、、、しかし」
「運の良いことに、その店は極側にある。
そこで得た情報で土地鑑を養えば、お前が目指す『立派な刑事』になれる日も近い」
ともすれば緩む口元を引き締め、子供を巻くような台詞をヌケヌケと吐いて肩を叩くと、
「り、、、了解しました!
では木瀬春馬、新人刑事の重要任務を、まずはバイトによって遂行しまっす」
世間を知らない口が素直に反応した。
『ちょろい、、、』
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