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モタモタと上着を脱ぐキセに、
『人の多い場所で時間を潰してろ、終わったら連絡を入れる』
とだけ指示を残し、花園街のメインストリートから一筋離れた果子通りへと向かった。
通りに入り、いくらも経たないうちに、
『水無月さん、花園街にいるならすぐ出て下さい』
一課に詰めている捜査員が電話の向こうから早口で伝えてきた。
「何があった」
『相勤のキセから本庁へ応援要請が入ってます』
「、、、、なんだと?」
『男女間の揉め事だそうですが、所轄には
[メインストリートのど真ん中で警察を名乗る男が夫婦喧嘩に割り込み、揉み合いになってる]
との通報が何件か入ってます』
電話を受けながら水無月は瞬時に歩先を変えた。
踏み出す度に沸々と怒りの感情が起こるのを必死で抑え、
『勘弁してくれ、、、』
久しぶりに吹き出す額の汗を手のひらで乱暴に拭いつつ髪をかきあげた。
しかし、湯気を放つ包子屋台の前にできた人だかりで、それが『勘弁』されない事実であることがすぐにわかった。
建物の陰に身を隠し遠目に様子を探れば、人だかりの真ん中で、
『刑法第208条っっ
暴行の現行犯でお前を逮捕したぞ!
おとなしくしてろっ』
キセが若い男の後ろ手を取って地面に伏せさせている。
その側では、
『ちょっとアンタ!
うちのダンナに何すんのよ!
他人の喧嘩に入って来ないでよ!』
女がキセを蹴飛ばし、喚いている。
観光客や店先に立つ露店商からの注目が集まる中、キセはスマホ片手に、
『確保ーっ、マル被、確保ーっ、
応援現着まだでしょうかぁぁっっ?』
天に向かって大声を響かせていた。
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