『キセ』くん ─2─ 寝言

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─── 「しかし初日からよく働きましたね。 次回は花園街(ファーユエン)で、ゆっくり飲茶でもしたいものです」 キセは『ふぅっ』と息をついた後、肩にかけた荷物を入ってすぐの床に降ろし、トランクを引っ張り込む。 「、、、お前は働いてなどいない。 昼に餃子をたらふく食って、午後に騒ぎを起こし、花園街(ファーユエン)のメインストリートで自分が警察関係者だと公言しただけだ」 騒ぎの最中、その場を離れた俺はすぐに情報屋に連絡を取った。 が、早くも騒ぎを聞きつけていた相手は、 『子連れで来るんじゃ話にならない』と、 俺への警戒を蔑むような笑いに変え、次の接触を取り合わなかった。 過去経験ない自身の失態に、怒る気力は失せていた。 「騒ぎだなんて。 水無月さんは駆けつけてもくれなかったじゃないですか、あの時はまだ近くにいたはずなのに、、、」 「『だなんて』と言いやがったな。 お前は俺が九ヶ月かけて取り付けた情報屋との接触を あっさりブチ壊したんだぞ」 「男が女性の襟元を掴んで振り回してたんです。 目の前で起こっている犯罪をほっとくなんて僕にはできません」 「結局ただの夫婦喧嘩だったんだろ? 通報によると女が先に男の頭殴ったって言うじゃないか」 どうでもいいことを口にするだけで脱力に蝕まれる。 「ま、そうですけど、、、」 「お前の面が割れたのはいい。 だが、これで花園街(ファーユエン)に警察が入り込んでるって情報は確実に黒鱗(奴ら)の耳に入った。一体どうしてくれ、、、 おいっ、トランクは入口までだ、 荷解きはそこでしろ」 やり場のない苛立ちはキセが持ち込むトランクにまで及んだ。 「汚したら責任もって綺麗にしますよ。 僕、掃除は嫌いじゃありませんから。 けど水無月さん、あの時 周囲には店員と観光客くらいしか いませんでしたよ?」 「いい加減な口をきくな。 あの街に設置されてる やたら多い防犯カメラは、外部から入ってくる諸々をチェックし監視するためにあるんだ。 今頃お前の馬鹿面(ばかづら)は、奴らの下っ端にまで拡散されてんだろうよ」 「なるほど、防犯カメラですか」 「とにかく俺は今後一切お前とは動かない。 お前も花園街(ファーユエン)には近づくな」 「花園街(ファーユエン)に同行するなと言うのは わかります。ですが他の現場(ヤマ)もだなんて」 脱いだ二足の靴を揃え、顔を上げたキセは前髪を振り払い、生意気にも口を尖らせた。 「僕は嫌です」 続けてトランクからスニーカーや革靴の類いの入った箱を取り出し、 『、、、水無月さんからは離れません、、、 僕は寝食、、、生活も共にして、、、立派な刑事になりたいんです』 ぶつぶつと呟きながら、作り付けの棚に並べ始めた。 反省もなければ、帰る気も無さそうなその背中を眺め見、俺は一つの策をもってその背後に回った。
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