『キセ』くん ─3─ 正体

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─── 「ここには現在2名の 『Intellectual(ギフ) giftedness(テッド)』認定をされた子供がいます。 、、、春馬君を隔離した当時と現在では体制も随分と変わり、、、」 俺が抱きかかえたキセを建物の入口で降ろすと、安藤はスリッパを揃えて出し、身体を起こして表情を緩めた。 「彼らと実の親は関係を維持されたままで、専門の研究員からトレーニングを受けながらいつでも会うことができます」 ホールからすぐの扉の向こうには広いフロアがあった。 「ご覧下さい。 ここには持って生まれた神からの賜物を育て、完全にする全てがあります」 壁の二面に据えられた書棚は天井までぎっしりと本を抱え、最新であろうPCが並び、同時に様々な言語がスピーカーから流れ出、音楽も混じっていた。 手前の床には5歳くらいの女児が座り、壁に貼られたLEDビジョンの上を高速でスライドする画像を見上げ、笑顔でそれを追っている。 が、それらは種類を限定しない様々な画像だった。 「彼女は瞬間記憶能力を限界まで伸ばしているところです」 窓から外を見れば、もう一人、男児が白衣を着けていない成人女性と走り回っていた。 「彼は今、ここでの『母役』、つまりコントロールマザーと鬼ごっこ中ですね。 一見自由に走り回っているように見えますが、彼の足下には踏んではならない印を付けたスクエアラインが靴のサイズぎりぎりで変則的に張られています、、、ほら、今 跳んだでしょう?」 言われてグラウンドを見ると大きく跳躍した男児の足下には白いラインが引かれていた。 とはいえ、男児の顔はコントロールマザーと呼ばれた女に向けられたままだ。 「彼には一度グラウンドを見せ、ライン中の印の位置を確認させただけです。 彼の脳はそれを正確に記憶し、運動能力と連動させることができるのです」 「全てにおいて優秀ってことなのか?」 「いいえ、ギフテッドは必ずしもそういう括りでは表せません。 学習困難を抱えていることもありますし、対人関係の構築に課題がある場合もあります。 しかし私は、それら負となる全てをバランス良く調整して春馬を育て、知識はもとより最近になって成功した遺伝子操作により病気をしない身体までも与えました。 今ではここにいる二人の子供達も完全なる健康体を得ています」 「、、、それだけか?」 「と、いいますと?」 「3歳のガキには知識や運動能力よりももっと必要なモンがあんだろ」 「我々研究者には、実の親に匹敵するほどの『愛情』が無いとでも?」 安藤は横にいるキセを引き寄せた。
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