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─ 15日目 ─
朝、
「オーナーから水無月さんに話があるそうです」
洗面所から戻ってコーヒーを淹れる俺を待ち構えていたキセは、シリアルをスプーンで掬いながら話しかけてきた。
「チッ、、、とうとうクビか。
一体何やらかしたんだ?」
刑事の見習いとしては全く使えないキセに俺が課した重要任務は、
『この建物と背中合わせに建つ、フレンチレストランでのバイト』だった。
店主でも家主でもあり、元同職であった若きオーナーに、俺と一緒に住むことになったキセを紹介し、そのついでにこの街に馴染むまで店で使ってくれないかと早々頼み込んだ。
全ては捜査の『邪魔』でしかないキセを遠ざけるためであったが、大使館がらみの客が多い店において刑事見習いのキセは二つ返事で引き受けて貰えた。
給料を得ると面倒なことになる為、タダで使ってもらっていたが、想像以上の面倒を起こすキセが見限られるのは時間の問題だと思っていた。
「水無月さんには言わないで下さいとお願いしたのですが、そうもいかないそうです」
やや困ったようなキセの表情に違和感を感じながらも鼻で笑う。
「ふん。お前のことだ、どーせまた客のケンカにでも首突っ込んだんだろ」
「凄いです!
どうしてわかったんですか?」
「その為に元刑事のオーナーに目付を頼んだんだからな。
でもまぁ、、、
使えないお前にしちゃ、もった方だ。
仕方ねぇ、もう一度頼み込んで敷地の庭仕事でも、、、」
「結果、水無月さんが了解してくれれば、僕に他の仕事も頼みたいそうですが、、、」
思いもかけないその後のセリフに、俺は一度口につけたコーヒーカップを離し、ゆっくりとカウンターに下ろしてキセを見た。
「断ってもらえませんか?
いくら重要任務とはいえ期間が延長されてしまうのは困ります。
バイトで この街の情報が一通り得られたら、僕は水無月さんに同行したいんです。
僕からもそう言ったのですが、、、。
『それら含めて話がある』そうなので、オープン前にでも店に寄って欲しいと仰ってました」
「そう、、、か」
キセは空になった、やたらデカいボウルをシンクに運び、冷蔵庫から無花果の乗った皿を取り出し、
「しかし、レストランでの重要任務というのは随分とおトクです。
だってほら、余ったからって帰りに持たせてくれたんですよ、この無花果。
水無月さんも一つ どうです?」
言って皮を剥かずにそのまま食べた。
「、、、、」
「どうです?」
「いや、いい」
一体どういうことだ、、、
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