あの子を探して

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これほどとはな…。 中世ファンタジー文明の町を飛び出し、しばらく歩いてからたどり着いた濃密な広葉樹の木々に囲まれて鬱蒼とした森は、昼間でもあまり光が差さない。 何か出そうというよりまずは視界を確保するために入り口付近でせめてランタンが必要になったのだが、双剣使いの俺は生憎と両手が塞がっていた。 灯りを灯せる仲間が必要か、と思ったが生憎とこの辺りで信頼出来るだけの仲間は存在しないに等しい。 ここにいるのは100人の小学生(・・・)とそれを追って群がる「大人」だけ。 俺が探しているのは前者だから、後者が信頼に値しないのはほとんど目に見えていた。 「…いきなりつまづいたか。」 剣を納めて、後ろ手で頭を掻いた。 使いやすいジョブだから、なんとかなると思っていたのにいきなり前途多難か。 しかし、もう帰れない…後には引けなかった。 「あら、ラッさん…いや、今は…。」 そんなこんなで森の入り口付近で立ち往生していると、一人の女の声が聞こえる。 「もしかして『牛ひき肉100グラム』さんじゃない?」 魔法使いらしい女の抜け目の無い情報網に、彼女の普段の生活態度が垣間見えて寒気がした。 株式会社ireguiが発売した3年経っても目が出なかった超マイナーMMORPG『仕掛け網の魔術師(イモヅル)』。 今から2週間前に15人ほどログインしていたそのゲームが、その日突然デスゲーム化したらしい…意識がゲームに取り込まれて目が覚めないというアレだ。 その15人は意識不明…ゲームの開発陣や責任者も行方不明。 『あの子がいなくなった。』 真相は知られないまま、忘れられるようなこの規模も小さ過ぎる案件は被害者の親御さんがゲーマーたちの掲示板に意識不明になった子供の救助依頼を書き込んだことで一変した。 その親御さんはゲームについての知識はまったくなかったらしい…ゲームだからクリア出来る可能性があるとか、どこかに脱出するためのアイテムが眠っていたとか、子供を救助しないのはゲーマーは権利だけ主張する臆病者だとか、いろいろ俺が掲示板にインしていない間にやり取りがあったらしい。 そんな中、また20人ほどのゲーマーがかのネトゲに無断でログインする事件が起こった。 このサイトで情報交換を繰り返した蓮柊(れんしゅう)ちゃんというゲーマーが原因だった。 情報をやり取りしている中、彼女はリアルでは小学生ではないかという疑いがサイト内のメンバーで持ち上がる。 俺は高校生で、期末試験の最中だった…彼女は子供を探してくれという親御さんの悲痛な叫びとやるせなさを聞いていたはずだが、しばらく試験勉強でインしていなかった俺がゲーマーとしてその親御さんに力になりたいと思っていたと信じていたに違いない。 蓮柊ちゃんは別のMMORPGでの俺のパーティーの一人だった…高校生の期末試験なんか知らない小学生らしい彼女は手を尽くしてかのネトゲを探して俺を探しに行き、帰れなくなったに違いない。 そして、彼女の友人が彼女を心配して次々とマイナーなデスゲにログインして帰還不能になったのだろう。 半ば、俺の邪推でしかなかったが。 まぁ、確かめたくても多数の人間が書き込みを繰り返してログも埋もれ不適切な書き込みを丁寧に削除したサイトの管理者の優秀さに俺は手がかりひとつ掴ませてもらえない。
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