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「着いたよ」
祭くんに案内されたのは大学の最上階にあるラウンジだった。穴場なのか、人があまりいない。
祭くんは椅子を引いて俺に座るように誘導してきた。紳士だなぁと感心しながら俺は御礼を言ってそこに座る。
「もう少しで来ると思う」
斜め前に座った祭くんが時計を確認しながら言った。
「唯月…!」
それと同時に背後からこの3日間で聞き慣れた声が聞こえた。少し粗野で男らしいその声に、何故か俺は安心する。
振り返ると、慌てた様子の天樂がいて、俺を見て安堵の表情を浮かべている。
「驚いた。天樂にそんな顔させるなんて」
祭くんの感嘆の声が聞こえた。
俺も驚いた。俺相手に天樂がそんなに慌てるなんて思いもしなかった。どんな風の吹き回しだろうか。
「天樂…」
何でか天樂を見て安心してしまった俺は、思わず立ち上がって天樂の元に駆け寄った。
「行けなくてゴメンな、唯月」
今までに無いくらい優しい声で天樂に謝られ俺はぽかんと口を開ける。驚き過ぎて俺は何も言えずに謝らないで、とただ首を振るしか出来なかった。天樂には絶対馬鹿にされると思っていた。
口をあんぐり開けたまま天樂を見つめていると、その頭にぽん、と手を置かれた。
「お前は華奢だからなぁ…。まさかこんな野郎に堂々と声をかける物好きがいるなんて。人間ってのはどうも趣向が理解できない」
「それはアイツらを貶してるのか俺を貶してるのかどっちなんだ?」
「どっちもだ」
やっぱり天樂の言葉には所々人間への嫌悪や見下したような感情が感じられる。妖怪のイメージにしては天樂はとても人懐っこいけれど、完全に天樂が妖怪だっていう印象が崩れる訳でもない。やっぱりこいつは人間じゃないんだな、と痛感する。
「よしよし。ありがとうな、唯月」
そう言って天樂は俺の身体を抱き締めてきた。こいつにも労りの心というのがあるんだな。と俺は関心した。それに、人に感情を向けられるのは素直に嬉しい。天樂の俺の頭を撫でるその優しい手つきのお陰で、先程までの緊張が解けていく感じがした。
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