知らぬ間に

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「無い…」  部屋に戻った俺は、早速食べようとしていたお弁当を袋から取り出した。  しかし、弁当箱の中身を見るとそこは既に空っぽだった。さっきまで入っていた筈の稲荷寿司が米粒1つ残らず無くなってしまっている。何で?と思いながら一緒に買ったペットボトルを持ち上げてみると、買ったお茶も飲み干されている事に気がついた。  そういえば家まで帰る時、持っている袋がやけに軽かった。気絶する前は確実に入っていた記憶があるんだが…! 「はぁ〜、嘘でしょ…」  夕飯を失った俺は深い溜息を吐いた。  他に何か食べ物を探そうにも、確か冷蔵庫の中には何も入っていない筈だ。  それに、今から買い直すのも面倒臭い。 「最悪だ…」  俺は半べそをかきながらいそいそと空の弁当箱をゴミ箱に入れた。  もう今日はは磨いて風呂入って寝よう。何もかも忘れて夢の世界にダイブしたい…。  きっと俺は疲れてるんだ、嫌な気分には嫌な事が当たるのは世の常だ。泣きっ面に蜂なんて言葉があるんだから。  洗面台に移動した俺は、鏡に映った自分を見た。死んだ顔をした自分の目尻からは、大好物を失った悲しみの涙が流れている。  俺はふと自分の目尻に指先を当てた。つぅっと涙袋をなぞる。 「クマが酷いな…」  明日は今月唯一の休み…たっぷりと寝てやる!涙を流しながら俺は歯ブラシを取った。  そして鏡を見直してある事に気付く。 「米粒…?」  俺の口元には米粒が1つ、くっついていた。それを摘んで俺はまじまじと見つめる。  まさか俺は食べたのか?  極度の飢餓状態によって俺は遂に無意識の内に食事を…?  なんとなくお腹を摩ってみると、更に違和感を感じた。そういえば空腹感が無く、胃袋にものが入ってお腹が膨れていた。  ここ最近は社畜生活のせいで体重が激減してしまったし、物を食べると分かりやすく腹が出るんだよな…。  俺はシャツを捲って腹を見た。やせ細った身体にふくりと胃に何かが入っている感じが分かる。  そして確信した。これは確実に自分で食ったな、と。 「マジか…味わいたかった」  あそこの稲荷寿司、美味しいのに…。俺は悲しくなってしょぼしょぼと歯を磨き始める。  しゃこしゃこと歯を掃除しながらボーッと鏡を見つめていると、俺はもう1つ別の違和感に気が付いた。 「噛み跡?」  自身の身体をよく見ると、自分の喉仏に下から噛み付かれたような後が出来ているのが見つかった。噛み跡なんて生きていたらそう出来ない。俺の寝ている間に、一体何が起きていたのだろうか。  気付かない内に犬にでも噛まれたんだろうか…。なんだよ俺の家の周り…治安悪っ。俺は更にテンションが下がってしまった。  口を濯いだ俺は洗面台に手を着いて更に項垂れた。 「1階の田中さんの犬かな…あれ凶暴だし、田中さん注意しなさそうだし…」  ハァ…出勤最終日に嫌な思いをしてしまった。  身体もさっきよりも怠いし、風呂に入ったらとっとと寝て明日は丸一日寝てやろう…。俺はそう決意して身体を洗うべく服を脱いだ。
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