世話焼きお狐様?

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世話焼きお狐様?

「いっっっっつ!!」  ずぶずぶと牙の食い込む感覚に、俺は死を悟るレベルの痛みを覚えた。  犬に噛まれたとかそういうレベルじゃない。これは本物のやつだ。  最初はカプって感じだったのに、狐はその後容赦なく牙をくい込ませてきた。  痛みを感じないとかそんなファンタジーがあるわけがなかった。多分これは殺されるタイプの痛み。動けずに俺は壮絶な痛みにただ悶絶していた。超絶痛い、シャレにならないくらいに痛い。これは死んでしまう、と。  しかも噛まれた場所から何かが流れ込んでくる感じがする。先程までなにかを抜かれていたようなスッキリとした感覚が、また蓋をされるような気分になってくる。  不快だけども、大事な半身が戻ってきたようなそんな、変な感じ。 「はぁ〜やっぱりここの居心地、割と悪くねーんだよなぁ。俺たち多分、お前が健康体だったら相当身体の相性良いぜ」  焼けるような引き裂かれるような首元の痛みがすっと収まったかと思ったら、肩に何かが乗っている感じがした。この3日間ずっと抱えていた感覚と同じような重さだ。 「…野良狐?」  声が聞こえた方を向くと俺の肩に腕を回して抱き込んでいる狐の上半身が、半透明の状態になって映っていた。 見た目で例えると、俺の身体から狐の身体が幽体離脱しているような、そんな感じだ。  驚いて目を見開くと、狐とバッチリ目が合った。間近で見る意志の強そうな顔立ちは、作り物のように整っている。 「自覚されると見えちまうんだよなぁ」  狐はニヤッとしながら前に来ると、俺の喉を甘噛みしてきた。さっきの痛みを思い出して、ゾクゾクと鳥肌が立ってくる。 「前よりも深ーーーーーく、お前の魂の根元まで取り憑いてやったから。今度こそ逃げられねぇぞ」  耳元で悪魔の囁きが聞こえる。 「これでもう、お前は俺のモンだ」  狐の低く、嘲るような声色に、俺は本当に狐に騙されてしまったのだと自覚した。  化かすのは狐の性分。  その言葉を、俺は身をもって痛感したのだった。
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