あなたが好きだと言ってるじゃない〜承〜2

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あなたが好きだと言ってるじゃない〜承〜2

店内はこぢんまりとしており、カウンター席と椅子席が4つほど。 20人も入れない店内で、ボクと原くんでちょうど満席だった。 カウンター席には魚用の冷蔵庫があり、お寿司屋さんのようだった。 店内が木目で統一されており、清潔感のあるお店だ。 学生時代には居酒屋チェーン店によく連れて行かれたが、社会人になってこういう所に連れて来られると、大人になったのだと実感する。 椅子に座れてちょっとほっとしていると、原くんはすぐに生ビールを頼み、ボクはウーロン茶にしてもらった。 料理も全部原くんに任せてしまった。 食べ物の好き嫌いがないので、何でも食べられるボクだが、いかんせん量は入らない。 まあ、大部分は原くんが食べてくれてるからいいけど。 2時間ほど経つと、原くんが結構酔っ払い始めた。 時間はもう9時をすぎている。 「原くん、もうそろそろ帰ろう。明日も仕事だし、ね?」 眠りそうになっている原くんの袖を引っ張って、ボクは目を覚まさせようとする。 「・・・ん?・・・ああ、そうだな」 原くんは眠い目をこすって、大きく欠伸をすると伸びをした。 その様子が何処か子供っぽくて、少し笑ってしまった。 お勘定を済ませると、外に出た。全然気温の下がっていない熱帯夜の風が頬を嬲(なぶ)る。 すれ違った女性二人も暑い暑いと話しながら、扇子で顔に風を送っている。 駅までの道を歩いていると、原くんがふらふらとあっち行ったりこっち行ったりしている。 ボクは仕方なく原くんに肩を貸して歩いた。 身長差がありすぎて、バランスが取れない。 そのちくはぐな様子にすれ違ったサラリーマンが苦笑を浮かべていた。 こんなになるまで飲まなきゃいいのに・・・。 そう思いながらよたよたと歩いていると、原くんが不意に強い力でボクを引きずって、ビルの隙間の狭い横道に入って行った。 あれ?あんなにふらふらだったのに、今はちゃんと歩いている・・・。 不思議に思っていると、ボクはいきなりビルの壁に押し付けられた。 原くんがボクの頭の横に手をついて、ボクが逃げられないようにしている感じになった。 「・・・原くん?大丈夫?」 尋ねるボクに原くんは顔を近づけてくる。 熱い風が吹き抜けた。 「オレは・・・お前が好きだ」 「え・・・?」 「花織薫が、好きなんだ」 原くんの真剣な表情。 揶揄(からか)っているのでも、嘘でもなく、本当に本心を言ってくれていると、わかった。 それでも、ボクははぐらかそうと、 「ボク男だよ。原くん、ボクのこと揶揄って・・・」 「わかってるさ。男でも、それでも、オレはお前に惚れてる。オレじゃダメか?」 『ダメか?』と聞かれたら・・・ダメだとしか言えない。 ボクは・・・ボクが好きなのは・・・。 黙って俯(うつむ)いてしまったボクに、 「部長が好きだから?」 「え・・・?!」 びっくりして顔を上げると、眉根を寄せて苦しそうに笑う原くんと目が合った。 「お前、部長のことばっかり見てる。部長と話すと嬉しそうに笑う。部長と・・・」 「違う!そんなんじゃない!」 ボクは原くんの言葉を遮るように叫んだ。 気付かれないように、慎重にしていたつもりなのに、原くんに見抜かれていて恥ずかしかった。 それを隠したくて、ボクは否定の言葉を叫んでいた。 すると、原くんが急に顔を近づけてきた。 後頭部がその大きな手で包まれて、引き寄せられる。 キスされる・・・! ボクは口唇が触れる寸前に、原くんの胸を突き飛ばした。 体が少し離れた隙に、ボクは走りだしていた。 原くんの急な告白と、キスされそうになったことで、頭が混乱していた。 自慢じゃないけど、ボクは今まで誰とも付き合ったことがない。 だからキスもセックスもしたことがない。 だから・・・だから・・・初めては好きな人がいい・・・。 少女趣味だと笑われても構わない。 やりたい盛りの男が何を言ってるんだと、バカにされても平気。 ボクは、好きな人とだけ、そういうことがしたい。 他の人なんか関係ない。 これがボクなんだ。 ボクは、駅まで一気に走って地下鉄に続く階段を駆け下りた。 改札を抜けて、ちょうど来た電車に乗り込んだ。 ドアに寄りかかって、上がった呼吸を静めようと、深呼吸を繰り返す。 汗が全身から吹き出していた。 額から汗が落ちてくる。 脳裏に浮かんでくるのは、原くんの顔と、部長の顔。 部長なら・・・嫌じゃないのに・・・部長なら・・・。
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