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第1章
咲城暦。俺が生まれたときにもらった名前で、今まで大事にしてきたものだ。
「だーれだっ!」
放課後の教室で突然両目を塞がれ、今まで見えていた文字が見えなくなった。
「……その裏声、どうやって出してるの?」
裏声でも誰だか分かる。見谷四郎、俺のいとこだ。
家が隣で、兄弟のように育ってきた四郎と俺は、とても仲が良い。
「うーん、バレないと思ったんだけどな~」
四郎は、俺の両目を塞いでいた手を離し、後ろを向いて俺の背中にもたれ掛かってきた。
「四郎の匂いがした」
「え、俺そんなに臭い?」
不安そうな顔で自分の制服のにおいをかぐ四郎に、俺は違うよ、と首を横に振る。
「香水。2週間前から変わったよね」
「あぁ。前の香水、暦のお気に召さなかったようだから」
徐々に四郎の体が重たくなってくる。俺に預ける体重を少しずつ増やしているようだ。正直俺の背中が痛い……。
「それで、何やってたんだ?」
四郎はくるっと振り向くと、今度は一気に体重を乗せてきた。うぐっと変な声がでる。
「日誌だよ。今日は日直だったから」
出席番号順で回ってくる日直の仕事は、それほど多くない。黒板をきれいに消しておくことと、日誌を書くこと。この2つだけだ。
授業の号令や、教室移動のときに鍵を施錠するのは学級委員の仕事だ。
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