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マンモトーム
母との電話のあと検査の時間までまだ少し余裕はあったが、落ち着かなくて少し早めに行くと看護師さんが
「早く戻ってきてくれたんだね~ありがとうね~じゃあこれから検査するんだけど……ドキドキだよね」
と、私が緊張しているのを察したのか、優しく声をかけてくれた。
思ったより緊張していたようでトイレに行きたくなり「あ…すみません、トイレ行ってきていいですか?」と尋ねると『うん!いいよいいよ~また戻ったら扉ノックして。そのまま入ってきてくれたらいいから。』とのこと。
いつもならトイレなんて自分で探せるのに相当パニクっていたのか
「あの……トイレって…」
とトイレの場所を聞く始末。
『あっ、ここ出てね、真っ直ぐ進んだらすぐ右にあるからね』
「ありがとうございます」
落ち着け…落ち着け自分……5年前に検査した時だって何もなかったんだし、今回だってきっと何もない。大丈夫。手を洗いながら鏡に映る自分にそう言い聞かせた。
トイレから戻りノックしてから診察室に入ると上半身裸になってベッドに横になるよう言われた。
『これからね、少し太い針を刺して検査するんだけど、耳元でこんな大きな音が鳴るのね。でもびっくりしないでね?』
と、少し音を鳴らして聞かせてくれた。
その音はドリルみたいな音で確かに大きくてびっくりしたけど、それよりもチラッと見えた針の方に目が行き、それを見た瞬間身体中の血の気が引くのがわかった。
……いや、針ちゃうやん……ストローですやん……。
大人になっても注射が怖くて打つ前は「やだぁやだぁ!」と叫び、血液検査も点滴も目を逸らして歯を食いしばる程注射の類が大の苦手な私。
あんなぶっといの刺されて、いくら局部麻酔するとはいえ、痛くないわけがない。
怖くないわけがない。
『検査の前の麻酔の注射の方がちょっと痛いかなぁ』
もう何を言われても頭に入って来なかった。
ああ……誰かに付いてきてもらえばよかったな……心細いな……痛いかな……
そんなことを思いながら目をつぶったその時、看護師さんがスっと私の右手を力強く握り『頑張って…』と言った。
もう痛いとか怖いとかじゃなく、この看護師さんの優しさが嬉しくて、ポロポロと涙が溢れて止まらなかった。
私が子どもみたいに泣きじゃくるもんだからもう一人の看護師さんも左手を握ってくれて、2人に励まされながら検査を受けた。
嬉しさと情けなさとでまた涙が溢れた。
麻酔は言われた通りまぁ痛かったけど、その後細胞に針を刺してから吸い込む時もまぁまぁ「痛っ」という感じだった。
そんなこんなで検査が終わった後
『頑張ってくれてありがとうねぇ~この検査は患者さんの頑張りが必要だからねぇ』と言われた。
頑張れたのはあなたのおかげです。
そんな気の利いたことも言えないまま、
「ありがとうございます」
とただ一言お礼を言うだけで精一杯だった。
その後次の日にガーゼの交換と診察に来ることの説明を受けて家路に着いた。
帰ってからはずっと泣いていた。
将来のことを悲観してというよりは、旦那さんに申し訳ない気持ちと職場の上司の気遣い、人の優しさに触れてただただ泣くことしかできなかった。
食欲もなく、泣いて寝てを繰り返して朝を迎えた。
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