愛しい君

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顔を赤らめて祐を見つめるその梨乃の姿が当時の彼女とダブった。 祐「そうなんだ。梨乃が好きなのって俺なの?」 祐が梨乃を覗き込むと、ますます梨乃は顔を赤らめ、恥ずかしそうに祐のその胸に再び顔を埋めた。 そんな梨乃の頭を祐は慈しむように撫でる。 (…あぁ……やっぱりかよ…) 梨乃が祐のことを気に入っているのは気づいていた。 梨乃が生まれてまもない頃だったろうか。 泣いていた梨乃を祐が抱き上げると、すぐに梨乃は泣き止むという奇怪現象というべきことがあった。 俺があやしても全然泣き止まなかったというのに、祐が抱き上げるといつも梨乃はピタッと泣き止む。 俺の抱き方がまずいのだと思い込もうとしていたのだが、どうやらそれが理由ではなかったらしい。 しかし、まさかこんな幼いのにこんな風に恥ずかしそうな顔をして『好き』とか言うとかどうなんだ。 ふと脳裏に過るのは彼女の幼い頃。 あの頃、彼女もそんな風に祐の前で頬を赤らめていた。 見れば彼女もまたそんな梨乃を見つめ、何とも言えない複雑な表情をしている。 当時の自分の姿を思い出しているに違いない。 祐「そっか、そっか……ん、嬉しいよ。俺も梨乃のこと好きだよ。」 あろうことか祐までもそんなセリフを吐くものだから梨乃が食いついた。 梨乃「ほんと…?」 祐の顔を覗き込むようにして梨乃は見つめる。 まるでそれは恋を知った瞳―― 祐「ほんとうだよ。俺も梨乃のこと好きだよ。」 祐が梨乃に微笑むと梨乃は満面の笑みを浮かべた。 梨乃「やったあ。ゆうちゃ、だいすきっ」 その瞬間、梨乃は祐の頬にキスをした。 そんな梨乃の行為にさすがの祐も驚いたようだが、まんざらでもないような表情。 祐「…クスッ……梨乃からキスしてくれるんだ…」 梨乃「…だめ?」 可愛らしく頭を傾げるその姿も誰かさんに似ていたりする。 祐「ん……ダメじゃないけど……パパが怒らないかな?」 そう言って祐は意味深な顔で俺に視線を移した。 当然、俺はあまり気分がいいものではない。 何たって彼女の分身が祐に恋しているのだから。 しかもあの頃を思い出させるような―― (あぁ……寄りにもよって何で梨乃まで祐を……) 梨乃は彼女と同じ瞳で俺を見据えた。 梨乃「パパ、ゆうちゃとキスしたらおこるの?」 このあたりは俺の遺伝子なのだろうか。 梨乃は直球で俺にその質問を投げかけてきた。 祐にキスなんてしている姿なんて見たくもないし許せるはずがない。 だけど相手は子供。 まともにそんなことを言えるはずもなく―― 力「ん……祐にキスするんじゃなくてさ、パパでいいんじゃね?ほら…パパにもしてくれよ。」 そう言って梨乃に近寄ろうとすると、 梨乃「しないっ。りの、ゆうちゃとしかしないもんっ」 (が……がーーーーんっ……) 真顔で、しかも真剣な顔で梨乃に言われた俺はさすがに傷ついた。 それなのにその傷口に塩を塗るかのように梨乃は続ける。 梨乃「パパ、りの……ゆうちゃとけっこんするっ」 (なっ……なにぃ!?)  
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