待ちわびた人

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梨乃の首に掛けられたのは、少し前に行われた国際大会のメダルだった。 祐「梨乃と約束してたからね。必ず優勝するって…」 梨乃はその金メダルを手にとった。 梨乃「…きれい……」 そして、嬉しそうにそれを見つめている。 愛「祐、優勝したんだよね。おめでとう。」 祐「ん……なんとかね。梨乃との約束守れて良かったよ。」 国際大会でのメダルなんて私もまた初めて見る。 なかなかお目見えできないそれを私も見たいと思っていた。 愛「あ……梨乃、ママにも見せて?」 ところが、梨乃はそれをぎゅっと握りしめ私から隠すようにして―― 梨乃「これはりののっ…」 誰にも渡さないとでも主張するかのようにそれを私から遠ざけた。 愛「えぇっ……梨乃、ママも見たいよ?」 梨乃「…やだっ……りののだもんっ」 そんな私たちのやりとりを祐は面白そうに見つめている。 祐「…クスッ……ねぇ?梨乃?ママにもそれ見せてあげてくれるかなぁ?」 梨乃「でも……」 祐「ちょっとだけだよ。ね?いいよね?」 祐は私を魅了したその瞳で梨乃を覗き込んだ。 梨乃もまたその祐の瞳に弱いのだろうか。 するとすぐにメダルを私に差し出して―― 梨乃「じゃぁ……ママ、ちょっとだけだよ?」 そう言って名残惜しそうにそれを私に手渡してくれた。 そんな梨乃を祐はそっと彼の胸に寄せるとその頬をピタリとくっつけて頭を撫でた。 祐「いい子だ。ん……愛梨、今のうちに見なよ…クスッ…」 私はそのメダルを見つめた。 愛「…あ…思ったより重いんだね。」 祐「ん…そうなんだよ。結構重いんだよ。あぁ…ちょっと見にくいよね。ん。梨乃……ちょっと借りるよ?」 そう言って梨乃を宥めながら首からメダルのリボンを外すと、今度は私の首へそっと掛けた。 祐「…こんなカンジかな……どう?」 自然な感じで近づいた祐との至近距離は10センチほど。 梨乃をも魅了するその瞳が今度は私を捕らえようとしていた。 愛「…ぁ…う…うん。やっぱりインターハイの時とは違うね。こっちの方が断然重いね。」 初恋のその人の瞳は私にとってやっぱり特別。 今もその瞳に見つめられるのは弱い。 祐「あぁ、じゃぁ、もう少し位置ずらした方が楽かな…」 顔の位置は変えることなく祐は首に掛けられたリボンの位置を整える。 一瞬、私の首筋に祐のしなやかな指が触れた。 愛「…ん……」 その指の感触に思わず声が洩れてしまうと祐は笑った。 祐「…相変わらず……だね……クスッ…」 まるでその表情を楽しむように祐は私を覗き込んだ。 その妖艶な瞳で――― そしてその瞬間、指でコツンと私の額を軽く触れた。 祐「…悪い人だ……」 その時だった。   リビングのドアが開かれる音がした。
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