愛しい君

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愛「あ…ごはんの準備しなきゃ…」 少し照れくさそうに顔を赤らめながら彼女はキッチンの方へ向かうと、いそいそと食事の準備を始めた。 今や彼女は俺の専属スポーツトレーナー。 トレーナーだけではなく食事管理までもやってくれている。 料理の腕も日ごとに上げているようで、今では俺にとって頼もしい存在だ。 愛「ちょっと待っててね?すぐ用意するから…」 既にテーブルの上にはいつから作ったのかと思われるほどの大量の料理が並べられている。 力「また腕上げてるし。つか、めっちゃ美味そう。なぁこれ一口食っていいか?」 愛「ダメだって。お客様に失礼でしょ?」 その口調がなぜか段々俺の母さんに似てきているように思えるこの頃。 それが俺にとったらなんとなく嬉しい。 力「客ったって祐だろ?俺腹減ってんだよ…なぁ一口くらい…」 その時、リビングの方から声が聞こえた。 梨乃「パパ、ダメ!」 その声は俺の愛する娘の梨乃。 さっきから気にはなっていたのだが、梨乃はずっと胡坐をかいた祐にすり寄るように座っている。 俺は梨乃の元へと向かった。 力「梨乃、ただいま。元気だったか?」 俺は梨乃の方へと近づいていく。 だが、梨乃は俺をジッと見たがすぐにまた祐の胸へと頬を擦りつけるようにして抱きついた。 力「…ちょ……は?どういうことだよ…」 そんな梨乃を宥めるように祐が言った。 祐「ん……どうしたの?梨乃?パパ帰ってきたのに。ほら、おかえりって言わなきゃだよ?」 だけど、梨乃は頑なに俺の方を見ようとしない。 愛「梨乃。パパにおかえりは?」 キッチンの奥から彼女もまた声をかけるけれど、それでも梨乃は俺に振り向いてくれない。 反抗期だろうか。 祐「どうしたんだろうね。ん…梨乃ご機嫌ななめなの?」 祐が梨乃を覗き込むと梨乃はそっと祐と目を合わせた。 そんな梨乃の頬に触れる祐。 祐「梨乃?パパはママと梨乃のために頑張ってきたんだよ?だから…ね?」 祐は言い聞かせるように梨乃を宥めた。 すると梨乃はコクリと頷き俺を振り返った。 梨乃「パパ、おかえり…」 俺を見る梨乃の顔はまた彼女に近づいた気がした。 家を空けていたキャンプの間はたったひと月弱。 その間にまたこんなにも似てくるなんて遺伝子おそるべし。 だけど、似てほしくないところまで似てきているような気がする。   あの彼女を魅了した妖艶な祐の瞳に梨乃も捕らわれているのは一目瞭然で――
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