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3話 大阪の地にて
明るく照らされたステージで、お笑い芸人達が思い思いのネタを披露していく。
それに呼応するように客席の暗闇に沢山の人々の笑い声が木霊した。
横では彼氏である水澤君が大口を開けて笑っている。
故郷福岡から遠く離れた大阪の地で、私は水澤君とお笑いのライブを見に来ていた。
いやさ、まぁ予感はしてたよ?初デートの行き先が大阪だっていう時点でこの光景は薄々分かってたよ?相手も水澤君だし。でもさ、ちょっとは期待するやんか。初デートだよ?県外だよ?そりゃ期待するよ。
笑い声が響き渡るライブ会場で、私は一人物思いにふけり、1ミリも笑って無かった。恐らく、この会場で笑ってないのは私位だろう。
そんな私を置いて水澤君は無邪気に笑う。
………まぁ、確かにこの笑顔を見れるだけでも悪くは無いんだけどさ……
その後、私は水澤君を暫く眺めていた。
うん、ライブ終わったんだけどさ。全然暫くじゃすまんかったわ。
もう終始水澤君しか見てなかったわ、寧ろライブ1ミリも見てなかったわ。
「いや〜、面白かったね!大阪のお笑いって東京のと趣が違うから偶にみたくなっちゃう
よね〜」
「え?あ、うん!そうだね〜」
いきなり話しかけられたので、
焦って曖昧な返事で返した。
そこから、二人とも沈黙した。
賑やかな大阪の大通りで、福岡からワザワザ来たカレカノの間に静寂が流れる。
静けさに耐えかね、私はさっき買った流行りのタピオカミルクティーを啜った。
少し大きなストローを勢い良く登ってきたタピオカが、口の中で独特のプニプニ食感を出す。
実際はタピオカなんて大嫌いだが、取り敢えず飲んでおく。
「草薙さん、俺さ、今日彼氏みたいな感じで振舞えたかな?」
いつもの無表情になって水澤君は尋ねた。
「え?どういう事?」
状況が上手くつかめず、尋ね返すと、
「いやさ、俺色んな人を降ってきたけど、彼女をちゃんと作ったのは草薙さんが初めてでさ、草薙さんを楽しませようとして色々考えたんだけど、俺楽しい所っていったらお笑いのライブしか思いつかなくてさ」
水澤君は自嘲気味に笑って言った。
大阪は戒橋の真中で、不穏な空気が流れる。
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