第1話 うり坊系女子高生、大好きな乙女ゲームに転生する

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第1話 うり坊系女子高生、大好きな乙女ゲームに転生する

「わぁぁぁぁんっ!ママってば何で今日も10回しか起こしてくれなかったのーっ!?これじゃ始業式なのに遅刻だよぉぉぉっ!!」 「馬鹿おっしゃい、朝は忙しいんだから起こすのは10回までって高校生になる前に約束したでしょう!夜中までゲームやってたあんたが悪いのよ!」 「わーんっ、ママの鬼ーっ!!」 「ははは、お前はまた朝から賑やかだなぁ、兄ちゃんが学校まで車で送ってやろうか?」  スーツ姿で優雅にコーヒーなんか飲んでるお兄ちゃんがそう誘惑してきてちょっと迷ったけど、机にあったものの中で朝ごはんに咥えていけそうなそれを引っ付かんで玄関から飛び出した。 「大丈夫!走ればまだ間に合うから!じゃっ、いってきまふーっ!!」 「ちょっ……!パン咥えていくならせめて一枚にして頂戴!八枚要り食パンを袋のまま咥えていかれたら皆の分の朝ごはん無くなるでしょーっっ!?」  『だからあんたは“うり坊”なのよーっ!』なんてママの失礼な叫びとパパとお兄ちゃんの笑い声をバックに、袋のまま食パンを咥えた私は学校までダッシュした。食パンは、朝と昼に分けて全部おいしく頂いた。  放課後、中学の時から仲良しの二人と一緒に三人で帰りながらポツリと呟く。 「でも、八枚全部味なしはキツかった~。明日はジャムか何か持ってこよーっと」 「あ、じゃあ私バターとか用意しておくよ~。トースターがあるともっといいよねぇ」 「いや、甘やかすな!学校はパン屋じゃないのよ!あんたもね……そもそも遅刻しないようにって言う反省の気持ちは無いわけ?またあの乙女ゲームに夜中まで熱中してたんでしょ。てか、食パンなら一枚だけ咥えて来いよ、八枚入りを袋ごととかアゴの力化け物か」 「あはは、それほどでも~」 「「褒めてはないから!」」  真ん中を歩いてた私に、サイドから二人の突っ込みが炸裂する。痛いっ! 「もーっ、痛いよ!馬鹿になっちゃったらどーすんのさ!」 「大丈夫よ、既にあんたは手遅れだから」 「なっ!!そっ、そんなことないもん、意地悪!意地悪なみっちゃんは置いて帰っちゃうから!」  クールな親友の心ない一言が突き刺さる。ガーンっとなった私は、プンスカ怒りながら二人を追い抜いて駆け出した。 「あーほら、またそーやってイノシシみたいに走り出す……。勢い余って道路とか飛び出さないでよー」 「やだなみっちゃん、いくらあの子でもそこまでお馬鹿さんじゃないよぉ」 「そうだよ!流石に飛び出して死んじゃうなんて馬鹿は……っ!!?」  呆れ気味の親友達の声を聞きながら走っていた足が目の前の光景に止まる。大きな道路を挟んだ向かい側の公園から、ボールがポーンと飛び出して来たのだ。そして、小さな子供も二人、ボールを追って道路に走ってくる。トラックが来てることに気づかずに。  なにかを考えるより先に、走り出していた。 「危ないっ!!」  ボールに追い付いてからようやく車に気づいて硬直してた子供達を歩道の方に思い切り突き飛ばした後、トラックに撥ね飛ばされた私の体は宙高く舞う。子供達が無事でよかったなと思いつつ、下で悲鳴をあげている親友達を見て思った。 (うーん、やっぱり私って猪突猛進なのかなぁ……)  そんな感想を最後に、私の意識はなくなった。  次に目が覚めた時、最初に飛び込んできたのはキラキラに輝くシャンデリアだった。 「あ、あれ、私……っ!?」  ぼんやりとそう呟いて、聞き慣れない声にハッとなる。  何今のアニ声、可愛い!!えっ、今の私の喉から出たの!!?ってか、妙に聞き覚えがあるこの声、現代日本じゃあり得ない西洋のお城見たいなシャンデリアや豪華な建物に天涯つきのベッド。これって、まさか……!?  期待に胸がドキドキし出したところで、これまた立派な扉が開いて、長い銀髪を後ろできっちりまとめたダンディーなおじさまが現れる。そして、ベッドに居た私をいきなり抱き締めた。えーっ!!? 「あぁミーシャ!目が覚めて良かった、私の可愛い娘!!いきなり母を亡くしてさぞ寂しかろうが安心しなさい、お前は今日からお父様と一緒にこの屋敷で暮らし、明日からは由緒あるブルーバード学院に通うのだから!!」  “ミーシャ”、“ブルーバード学院”、そのつの単語と、『どうだ、素敵だろう?』とダンディーなおじ様……改めお父様が出した、白とピンクを基調にしたワンピースタイプの可愛い制服で、予感が確信に変わる。  ミーシャはヒロインの公式ネーム、ブルーバード学院は、寝る間も惜しんで発売日からたった二日で(後日追加でデータ配信になるらしい一人の隠しキャラ以外は)全クリした、あの大々大好きな乙女ゲームの舞台になってた学院の名前だ!つまり私はーっ!  お父様が『今夜はゆっくり休みなさい』と出ていってから、バッと手鏡を覗き込む。そこにはエメラルドグリーンの髪に水色の瞳の、お目目ぱっちり美少女がいた。 「私、乙女ゲームのヒロインになっちゃったのーっ!!?」  そう叫んだ声も可愛い可愛い、ヒロインの声そのものだった。      ~第1話 うり坊系女子高生、大好きな乙女ゲームに転生する~
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