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吐き捨てるように言うと、また歩き出した。
突然の敵意に呆然としていた。ハッとして、バーニアを追いかける。
どうしたらいいのか分からない。胸が痛む。でも、これから一緒にいるのに、このままでは駄目だ。
バーニアの数歩後ろを歩く。炎のような赤髪から、熱気が発されているようで近付き難い。
話さないと、彼女のことを知らないままじゃ喧嘩も和解もできない。
バーニアに声をかけようとしたとき、彼女は急に立ち止まった。周囲を見渡している。森は静かだ。しかしバーニアは右方向を見つめて警戒しているようだ。
僕も同じ方向を見つめていた。微かな声。泣き声のようだった。
少しそちらに近付くと、木々の合間に、少女が見えた。座り込んで、袖で顔を覆っている。悲痛な泣き声がはっきりと届く。
少女の姿が、妹と重なる。同じくらいの年だろう。僕は少女に近付く。
「待て」
振り向くとバーニアの険しい表情。
「どうする……つもりだ」
「あの子は何か困ってる。助けてあげないと」
バーニアの目が一層鋭くなる。気圧されそうだ。
「私たち……には……関係ない」
僕は拳を握る。
「何とも、思わないのか?」
バーニアは顔をしかめて視線を逸らす。
迷っているような彼女の表情に、手の力が抜けた。意外だった。もっと冷徹な態度を予想していたから。
バーニアのことが気になるが、僕はひとまず少女に駆け寄った。街の子だろうか。紺色のワンピースの所々が土や葉で汚れている。
「大丈夫?どうしたの?」
僕の呼び掛けに反応せず、少女は泣き続ける。
妹が転んだり、嫌なことがあったりして泣き叫ぶときは、おもちゃか甘いものでもあれば気を引き付けて落ち着かせることができる。でも今は何もない。
「ノックス」
いつの間にかバーニアが背後にいた。差し出した手に飴玉がある。
「キャロルからの……荷物に……入ってた」
「バーニア……ありがとう」
僕を見下ろす表情が少し綻んだような、満足気に見えた。
飴を舐めて気が紛れたようで、少女は泣き止んでくれた。
少女の名前はマルシェ。街に住んでいる。何故森にいたのかについては、話しにくそうに教えてくれた。
「……お母さんとお父さんに……置いていかれたの……」
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