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僕たちとマルシェは街へ向かう。
思った通りマルシェは街の子だった。
「お母さんもお父さんも、私のことが嫌いなの」
マルシェは俯いて言う。
子供のことを嫌いな親がいるとは思っていなかった。僕の小さな村では皆が家族のようなものだ。協力しなければやっていけない。
並んで歩くバーニアの様子を伺うと、考え込んでいるように見えた。
「ピクニックに来たのに、お母さんが途中で忘れ物を取りに戻って、お父さんは、お母さんを手伝いに戻るからここで待ってなさいって言われて……」
マルシェの声に涙が混ざる。
「ずっと……待ってるのに……来ないの…」
僕はマルシェの頭を撫でる。
「時間が、かかってるんだよ」
「ずっと……朝からずっとだよ……?」
もう昼を過ぎている。戻る途中で何かあったのだろうか。例えば、野盗……。この森にも……?
「前にも……あったの」
マルシェは鼻をすすって話す。
「人混みではぐれて、警備の人がお母さんを探してくれるまで、お母さんは私を探してなかった……」
マルシェは小さな肩を震わせる。僕は彼女と手を繋ぐ。小さな手が力弱く握り返してくる。
理由はあるのかもしれない。でも、守るべき子供を悲しませる親を許せない。
バーニアに止められても、マルシェの親に物申すつもりだった。
――マルシェのもう片方の手が繋がれる。
バーニアはマルシェを見ている。
「私と……一緒だ」
そう聞こえた。
バーニアは僕に視線を向け、頷く。
僕は、微笑んで、頷く。
街に着くと、一瞬、マルシェのことを忘れて心が躍り始めた。数え切れない人混み、賑やかな商店、石造りの塔、そして蒸気機関の煙突。
僕の村にないものが溢れる、輝かしい街。
バーニアに睨まれている気がして我に帰る。案の定、彼女は冷たい視線を僕に注いでいた。
「えっと……マルシェ、家に案内してくれる?」
マルシェは頷く。
「待て……。お前……そんな格好で……街を……歩くつもり……か?」
僕は自分の服装を見る。猪の毛皮コートにズボン、ボロボロの藁靴。おそらく髪の毛もボサボサだろう。
「服を……買え」
「お金……ない」
着の身着のままなのだ。何ももっていない。バーニアは忌々しそうな顔をする。
「キャロルに……返せよ」
バーニアはバッグを探り、小袋を取り出す。中から色とりどりの、煌めく宝石のようなものをいくつか掌に出した。
僕とマルシェはそれを見つめる。乱反射するそれは、よく見ると見覚えがあるものだった。
「龍の、鱗?」
バーニアは頷く。僕は鱗を受け取る。
「売って……金にしろ」
キャロルに返せ、とはそういうことか。いくらになるのか検討もつかないが、果たして返せるだろうか。
「ねえ……それ、見ていい?」
マルシェが目を輝かせている。僕は手を開いて鱗を見せる。赤や青、緑、白。角度によって色が変わるものもある。
「綺麗……」
後ろ髪を引かれたが、見とれているマルシェをバーニアに預けて、僕は換金と買い物に向かった。
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