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残ったお金はバーニアに渡した。
着替えた服を見たバーニアから睨まれる。睨むつもりはなくて、目付きが鋭いだけかもしれない。
服のセンスなどあるはずもないので、店員さんに選んでもらった。茶色の上着だけ自分で選んだ。魔法コーティングされた服は借金が多くなり過ぎるので見送り。
ちくちくしない、薄いのに暖かい、僕は違う生き物になった気分だった。着替えてみて始めて今までの違和感に気付く。ようやくこの街に馴染んだ気がする。
騒がしい街と人に、視線は落ち着かない。でもマルシェの手を繋いでいることを思い出して、彼女の手をしっかりと握り直す。
人だかりができていた。青いローブを着た男二人から距離を取って、囲むような形だ。男二人は周囲を見ている。話し合っているようだが、声は届かない。
バーニアが僕の背後に迫る。どうしたのかと振り向くと、男たちを強く睨みつけていた。僕を盾にしているようだ。
「あの服……魔法使いだ」
僕は驚いて彼らをよく見る。普通の人間と違うのだろうか。魔法使いを初めて見るから分からない。
「魔法使いとは……あまり関わるな……ってキャロルが……言ってた」
バーニアは僕の服を引っ張り、路地裏に入る。薄暗い、湿った空気。
「マルシェ、ここからでも家に行ける?」
マルシェは小さく「大丈夫」と言って頷く。
とりあえず向かうのはいいが、僕は先程疑問に思うことがあった。歩きながらバーニアに尋ねる。
「バーニア、何で魔法使いと関わらない方がいいんだ?」
バーニアはちらりと僕を見て、ため息をついたようだった。
「魔法は……龍のものだ……。龍が……人に力を……渡さないと……使えない…。お前も……夜龍の力を……使える。でも……魔法使いの協会……『白天会』は……力を奪っている……噂があるから……」
バーニアは一息つく。話すことにまだ慣れていないのに、説明をさせてしまったな、と僕は申し訳なく思った。
「ごめん、バーニア。ありがとう。怪しい奴らってことなんだね」
「噂だ……。実際は……龍のため……人のために……活動してる……らしい」
でも一応気を付けろ、というのがキャロルの教えということか、と僕は納得した。
路地裏から出て、また人が多い通りに戻る。
マルシェが僕の袖を引っ張る。
「ねえ……さっきのキラキラ、また見せて」
僕はバーニアに声をかける。バーニアは再び僕の手に鱗を少し出してくれる。
マルシェは煌めきを目に映す。実は僕も見てみたかったので役得だった。
「もう……いいか」
バーニアが僕の手から鱗を取ろうと手を伸ばす。
「あ、ありがとう」
バーニアに渡そうとした瞬間。
小さくて素早い動きが、バーニアの持つ鱗の小袋を奪った。そして走り去る小さな姿。
「……え?」
僕は何が起きたか分からずきょとんとしていた。
「待て!」
バーニアの声は雑踏に紛れて消えてしまった。
マルシェが鱗を奪って逃げた、と理解するのに時間がかかった。
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