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「どういう……ことだ!」
「分からないよ!」
何が起きたか整理しようとする僕と、盗人マルシェを捕まえたいバーニアで意見が割れた。でも言い争っている時間がもったいないのは一致した。とりあえず探しながら考える。
街育ちのマルシェが逃げた先を、街に親しみのない僕たちが見つけるのは至難だ。二手に分かれて探そうにも、迷子になる可能性の方が高い。
バーニアは目を見開いて周囲を捜索していて、過ぎ行く人々を睨み付けている。怒っているだろうし、焦っているように見える。彼女は深呼吸をして、目を閉じる。眉間に皺を寄せて、集中しているようだ。魔法を使って探すことができるのかもしれない。
マルシェの様子は、ただ無邪気に鱗を見ているだけだったように思う。僕は手に残った輝く鱗を見る。まさか最初から、旅人の物を盗むつもりで森にいたのだろうか。両親の話も嘘だとしたら、かなり演技が上手い。
何か理由があるはずだ、と僕は思う。そう思いたい。
バーニアは目を開き、息を吐き出す。僕は彼女の表情から失敗を悟る。バーニアは僕を睨む。
「私の……力は……探すのに向いていない……。お前の……夜龍の力なら……もしかしたら……」
夜龍の力。使い方を教わらないままだったから存在を忘れていた。
「どうやったら使える?」
バーニアはますます眉をひそめる。
「……どう……やったら……?」
バーニアは考え込んでしまった。分かりやすい教え方を考えてくれているみたいだ。
バーニアにとって魔法は生まれつき使えるものだ。僕が言葉を無意識に話せるようなものだろう。僕もどうやって言葉をすらすら話しているかなんて分からない。
夜龍のことを考えて、夢の中みたいな会話を思い出す。
「夜龍が言ってた。自分の意識を少し残しておくって。僕の中にいる夜龍と話ができれば……」
バーニアは怪訝な表情をしている。僕は無理矢理笑ってみせる。
目を閉じて、夜龍の姿を想像する。目の前に、山のような龍を描き出す。
力を貸して欲しい、と見上げて語りかける。かつて聞いた唸り声を思い出す。
周りの騒音が遠くなる気がした。眠りに落ちる時のような没入感。同時に、体の中が熱くなる。心臓が強く打ち、お腹から広がってきた熱が、腕を伝い、腿を通り、指先まで届く。
これが、魔力?
熱はどんどん勢いを増す。皮膚のすぐ下を何かが這っているような感覚に、僕はハッと目を開いた。
見ると、僕の指先は黒い鱗を纏っていた。指先が、爪が徐々に変容していく。龍に変わっていく。
「な、何だ!?」
バーニアに手を掴まれる。
「何……してる……!止めろ……!」
「止めろって…今は何もしてない!体が熱くなって……」
僕は気付く。景色が夕闇みたいに薄暗い。手に持っている鱗が、今までと違い、光って見える。僕は顔を上げ、街の先を見る。人混みの先、同じ光が動いている。夜空に流れ星を見付けたようだった。
「あれだ……。行こう、バーニア!」
僕は違和感のある手で、彼女の手を取って駆け出した。
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