行進曲

9/10

40人が本棚に入れています
本棚に追加
/19ページ
「まさか……こいつ……!」  バーニアの焦ったような声。二人の方を見ると、バーニアに押さえつけられたマルシェから、黒い縄のようなものが飛び出してバーニアの腕に絡み付いた。  それは、黒光りする蛇に見えた。 「バーニア!」  とっさにバーニアはマルシェから離れて、腕の蛇を振り払おうとする。  彼女の動きが、不自然に止まった。蛇を睨み付けて、呻き声を漏らしている。  蛇は口を開き、舌をちらつかせ、バーニアを見ている。  蛇に睨まれて、身動きできなくなったかのようだ。  ただの蛇じゃないのかもしれない、と頭によぎったところで、キャロルが「蛇龍」を教えてくれたのを思い出した。  バーニアのような腕と翼が一体の、飛龍。  発達した脚で歩行を主とする、歩龍。  そして、蛇のような姿だが小さい手足と未発達の翼がある、蛇龍。  よく見ると、黒い蛇には手足がある。  バーニアは僅かに体を動かす。見えない力に羽交い締めされているように、じりじりと動く。  龍ということは、魔法を使えるはずだ。彼女を操ろうとしている? 理由は分からないけれど、抵抗しているバーニアを助けなければ。  僕は蛇龍をバーニアから引き剥がそうと、駆け寄る。 「……ッ避けろ!」  空気が、切り裂かれる。  バーニアの爪が目の前を横切ったのだ。  鼻先に鋭い痛み。  彼女の声に立ち止まっていなかったら、と思うと背筋が凍り付く。  バーニアは振りかぶったままの姿勢で、体を震わせている。 「近寄る……な……。こんな奴……くらい……」  薄暗い視界で、蛇龍がぼんやりと光り出す。  何か、できないか。  まだ手と足は龍化したまま。夜龍の力で他にできること……。  そういえば、夜龍は以前野盗を追い払うのに雷を使っていた。  手を意識する。キャロルが放ったような雷を蛇龍に当てることができたら。  でも、狙いが逸れたらバーニアに直撃してしまう。的として蛇龍はとても小さい。それに、バーニアの腕に付いているのだ。上手く当てたとしても、バーニアが無事で済まない。  右手が熱くなってきた。静電気が連続で起こったように、指先が痺れる。黒い鱗に電気が走る。  深呼吸。  僕は、龍化した右手を構える。 「蛇龍、僕の言うことが分かるか」  蛇龍に意識を集中する。  心臓がやかましい。  今だけ止まっていてくれないか。 「バーニアから離れろ。でないと、雷を撃つ」  蛇龍は僕を見て舌を出す。  やってみろ、という挑発のように。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

40人が本棚に入れています
本棚に追加