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「まさか……こいつ……!」
バーニアの焦ったような声。二人の方を見ると、バーニアに押さえつけられたマルシェから、黒い縄のようなものが飛び出してバーニアの腕に絡み付いた。
それは、黒光りする蛇に見えた。
「バーニア!」
とっさにバーニアはマルシェから離れて、腕の蛇を振り払おうとする。
彼女の動きが、不自然に止まった。蛇を睨み付けて、呻き声を漏らしている。
蛇は口を開き、舌をちらつかせ、バーニアを見ている。
蛇に睨まれて、身動きできなくなったかのようだ。
ただの蛇じゃないのかもしれない、と頭によぎったところで、キャロルが「蛇龍」を教えてくれたのを思い出した。
バーニアのような腕と翼が一体の、飛龍。
発達した脚で歩行を主とする、歩龍。
そして、蛇のような姿だが小さい手足と未発達の翼がある、蛇龍。
よく見ると、黒い蛇には手足がある。
バーニアは僅かに体を動かす。見えない力に羽交い締めされているように、じりじりと動く。
龍ということは、魔法を使えるはずだ。彼女を操ろうとしている? 理由は分からないけれど、抵抗しているバーニアを助けなければ。
僕は蛇龍をバーニアから引き剥がそうと、駆け寄る。
「……ッ避けろ!」
空気が、切り裂かれる。
バーニアの爪が目の前を横切ったのだ。
鼻先に鋭い痛み。
彼女の声に立ち止まっていなかったら、と思うと背筋が凍り付く。
バーニアは振りかぶったままの姿勢で、体を震わせている。
「近寄る……な……。こんな奴……くらい……」
薄暗い視界で、蛇龍がぼんやりと光り出す。
何か、できないか。
まだ手と足は龍化したまま。夜龍の力で他にできること……。
そういえば、夜龍は以前野盗を追い払うのに雷を使っていた。
手を意識する。キャロルが放ったような雷を蛇龍に当てることができたら。
でも、狙いが逸れたらバーニアに直撃してしまう。的として蛇龍はとても小さい。それに、バーニアの腕に付いているのだ。上手く当てたとしても、バーニアが無事で済まない。
右手が熱くなってきた。静電気が連続で起こったように、指先が痺れる。黒い鱗に電気が走る。
深呼吸。
僕は、龍化した右手を構える。
「蛇龍、僕の言うことが分かるか」
蛇龍に意識を集中する。
心臓がやかましい。
今だけ止まっていてくれないか。
「バーニアから離れろ。でないと、雷を撃つ」
蛇龍は僕を見て舌を出す。
やってみろ、という挑発のように。
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