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村での生活は不便極まりない。
魔法でも機械でも、誰もがつかえる時代だ。なのに数百年前からこの村は変わらないという。川で洗濯をして、機織りで服を作る。
少ない村人は減っていくばかり。たまに物好きが来て家族を作り定着する。僕の父さんがそうだ。若い頃、村を訪れ、母さんに一目惚れしたらしい。
満足なのか聞くと、とても幸せだと答える。母さんと僕、妹がいる。村人は皆親切だ。そして守り神の龍。自然と共に暮らすことの幸福を語られる。
もともと都会に住んでいた人だからだろうか。逆に僕は生まれてからずっと村で過ごしているからだろうか。
違う。もう人間はこんな生活に縛られなくていいはずだ。雑務は機械がやる、魔法で便利になる。
龍も好きじゃない。龍がこの村を守っているとして、なぜこの村なのか。こんな大きな生き物がどこからきたのか。貢物の必要なんてない。
村から出てやろうと何度も画策した。しかし荷物をまとめた所で、もう家族に会えない寂しさに襲われる。母さんの料理も、父さんとの狩りも、妹や友達と遊ぶこともできなくなる。そこが弱い。
森は野盗や大きな獣がいるから危険だ。村を出ていく奴を守るほど龍も優しくないだろう。まだ子供の僕には思い切れない。
それに……。
畑の近くで、おばあちゃんが薪を担いでいた。一歩一歩ゆっくりと進んでいる。
僕は駆け寄って手伝いを申し出た。
おばあちゃんは「ノックスはいつも優しいねえ」と言って笑う。
僕も笑って見せたが、少し苦笑していたかもしれない。
村には老人が多い。僕のような若者がいないと村が「困る」。
もやもやした気分のまま、毎日は過ぎていく。
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