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夢を見ている、と思った。
真っ暗な景色の中、体は水に浮かんでいるように不安定だった。
低く唸るような音が、意味を持った声に聞こえる。
「この村を、出たいらしいな」
「……誰?」
「お前たちが、夜龍、と呼ぶものだ」
ぼんやりと夜龍の顔が浮かぶ。僕の体よりも大きい。夜龍に包まれているみたいに感じた。
「夜龍…。また夢か」
「いいや。現実だ。お前はこのまま死ぬ」
「……死ぬ?」
唐突に突き付けられた言葉に脇腹が痛んだ気がした。
「しかし私は、お前を助ける。私の命をお前に与えてな」
「命を与える?」
「私の命、それに付随する衰えた魔力」
「命って、夜龍が代わりに死ぬのか?」
「それが理由だ」
僕は訳がわからず眉をひそめる。
「お前には私の望みを叶えてもらう」
「望み?」
「私を、故郷に連れていってほしい」
夜龍の唸りが一層低くなる。
「かつて放浪していた私は、この村の守り龍となった。永い時を過ごし、今や終わりを感じていた。使命と老衰で、動くことは叶わない。意識を託し、最期に故郷もう一度見たかったのだ」
僕は呑まれそうな夜龍の深い眼を見ていた。
「どうして、守っていたのがこの村だったんだ?」
夜龍は眼を閉じる。
「些細なこと。この巨躯を受け入れられた……。助けを求められた……。確かなことはもう覚えていないが」
僕は少し笑ってしまった。夜龍が眼を開く。
「もっと、崇められたからとか、支配したいから、みたいな理由だと思ってたよ。お人好しなんだな」
夜龍の唸りが少し高くなる。笑ったのかもしれない。
手を伸ばす。
「僕も、見てみたい。遠くの場所を。龍の故郷を」
夜龍の鱗に触れたような冷たさを感じた。
「……もうじきお前は目覚める。その後は、私の意識の残滓が、お前を導く」
徐々に暗闇が崩れていく。光が射す。
「目的を達すれば、私の意識は消える。申し訳ないが、しばらく付き合ってもらう……」
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