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「これは人間なのか?」
隣に立つユリにそれとなく訊ねた。
「少なくとも人魚ではないわね」
「それはそうだが・・この目は何だ? 魚みたいだぞ。それに尻の間から何かが垂れている」
「人間の体がサカナになっている・・」
人間が魚に変わってる。つまり、この絵に描かれているのは半魚人だということか。
ではなぜ、この安藤という画家はそんなものを描いているんだ? まるでそんな人間たちを見て来たかのようにも思えるし、その世界を我々に知って欲しいようにも思える。
そう思った時、
「この絵にご関心がありますかな?」
不意に声を掛けてきたのは、白髪頭の初老の男性だ。その声にハッと現実に戻った。
ユリは俺の体に隠れるように身を潜めた。
「不気味な絵だな、と思って見ていました」俺が答えると、
「私も最初はそう思っていました」と男が言った。男の胸を見ると、この展覧会の案内人を表す名札があった。名前は「石坂」と書かれている。
俺は絵には関心がないし、その知識もない。ここに来たのはユリの為だ。
だが次第にこの絵の世界に興味を持つようになった。
この絵は、人魚のユリと深く関係がある。そして、この世界とどこかで繋がっている。そんな気がしてならなかった。
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