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「ゆ」の一文字。
・・銭湯だ。
それも、どこか懐かしい感じのする公衆浴場だ。子供の頃、こんな銭湯に父と通った記憶がある。湯上りの父との会話が楽しかった。
ここもそんな場所なのだろうか。
高い煙突が、夜の空を突き刺すように高く伸び、煙突の上の方に、行書体で「ゆ」と書かれてある。
しかも、玄関が明るい。こんな遅い時間に営業しているのか・・
いずれにせよ、救われた思いだ。これで冷えた体を温めることができる。
バスの老婆が「町に着いたら風呂に入るといい」と言っていた風呂は、ここのことだったのか。
老婆の言う通りにするのも癪だったが、この際だ、仕方ない。宿は、体が温まってから探せばいいことだ。
銭湯の玄関を出入りする客も何人か見える。
それも男ばかり・・しかもさっきと同じく老人ばかりだ。この町の人間は、夜遅くに風呂に入る習慣でもあるのか。俺は銭湯を目指して歩を進ませた。
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