夜のバス

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 窓の外・・いつまでも海は見えてこない。そう思いながら、  海か・・  このバスが海に向かっているのなら、そこまで行ってみるとするか。  海辺の町に宿があるのか、どうかわからないが、他に行く当てもない。 「海」という言葉を聞いただけで、海鳴りが聞こえてくるような気がした。俺の住んでいた町には海は無かった。実家には山と海があったが、今の家には山すらない。  海まであと、どれくらい停車するのかわからないが、進むにつれ、客数は減ってきた。後ろの方に年配の客が数人。通路の反対側にさっきの男。  前の方に、二人ほど。ハッキリ言えるのは、若い人間がいないということだ。こんな時間だ。当然、子供は乗っていない。  話し声も聞こえないということは、互いに知り合いではないということか。  少し眠ろう・・  することもないし、退屈だ。窓の外は人家の灯りくらいしか見えない。  俺は寝る体勢に入った。終点まで乗るのだから寝てもかまわないだろう。  こんなに揺れていては眠れない・・そんな危惧は全くなかった。おそらく疲れていたのだ。目を閉じると、すぐに深い眠りに落ちていった。
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