異界

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異界

◆異界 「これは安藤さん・・この絵を描かれた画家が見たものらしいです」  石坂さんがそう説明した。 「石坂さんは、その安藤さんという画家にお会いになったことがあるんですか?」  俺が訊ねると、石坂さんは「ええ」と頷き、「立ち話もなんですから」と言って、近くのテーブル席に案内した。ユリも俺の後に続いた。  石坂さんは俺とユリの向かいの席に腰かけると、 「あの絵は皆さんの関心を引きますが、あなた方ほど、あの絵を見てらっしゃった方は他におられませんでしたから、嬉しくなって、つい声を掛けた次第です」と言った。  ユリは黙って聞いている。  俺はまずこの画家について尋ねることにした。 「この画家の方は行方不明と書かれてありましたが、消息不明・・つまり生きているか死んでいるか分からないということですか?」 「そうです」  石坂さんはそう言った後、 「数年前、ある日、忽然と姿を消したのです」と真顔で言った。決して嘘はつかない、そんな目だった。「今はどこにいるのやら」
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