人魚との交流

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 ここから一番近くて湯船のある場所はあそこしかない。  だが、銭湯には人魚を探している老人がいる。わざわざそんな危険な場所に行くことはできない。それ以前に、番台に入店を断られるだろう。  俺が歩いてきたのは上り坂だったせいか、銭湯のあった海沿いの街並みが、眼下に見えた。だが、町を見ると、我が目を疑わざるを得なかった。  なぜなら、町の向こうに見えたのは、「海そのもの」だったからだ。  暗黒の海面がせり上がってきている。そう見えた。  これが、番台の言っていた「土地が緩い」という現象なのか?  確かに、このままだと町が黒い海に呑み込まれていくように見える。  波が打ち寄せるたびに、少しずつ海が向かってくるようだ。 「あっちはイヤ」  そうかもしれない・・人魚は海から逃げてきたのだから、銭湯のある方に行くのは戻ることになる。 よって、俺の出した結論は、人魚と一緒に銭湯とは反対方向に進むことだ。  つまり、あの海から逃げる・・そういうことだ。  すると、妙な声と共に、道の向こうから老人たちがのろりのろりと向かってきた。  数えると魚人が三人・・いや、三匹か。  まずいな・・俺は人魚に、「そのまま、隠れてろ」と指示し、再び鉈を取り出した。
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