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だが、魚人たちは、俺の姿を見ても、何の反応も示さない。人魚の姿も認識されないのか、別のものを見つけて向かっていった。
それは、別れた女・・いや、魚人のメスの残骸だった。
「おっ、おっ」とこもった声を上げ、残骸を囲んだ。
どうするんだろう? 魚人のメスを弔うのか?
すると、リヤカーの中から人魚の小さな声が聞こえた。
「メスを食べるのよ・・」
「食べる?」同じ魚人同士じゃないのか? それにどう見ても不味そうだぞ。
すると、頭の中に人魚の言葉が入ってきた。
それは、「弔いの代わり」ということだった。
なるほど・・一応、納得はしたが、
俺はこう思った・・魚人は人間とは全く異なる思考を持っているということだ。
人間とは全く違う世界観や習慣がある。それは、人間とは相容れないものだ。
「魚人が襲ってこないうちに海から離れるぞ」
俺はリヤカーの取っ手を押しながら、自分に言い聞かせた。
すると、
「おじさん、アリガトウ・・」
俺の考えていることがわかるのか、人魚は、そう言って俺の上着に頬を擦りつけた。
それにしても、俺は人魚から見てもおじさんか・・まだ30だぞ。
「お前を風呂屋に連れていくことはできなくなったがな」
銭湯は危険だ。魚人がうようよしている。それに、若者になっている魚人がどんな力を持つのか、全く不明だ。
そんな俺の不安が分かるかのように、
「ダイジョウブ」
人魚は上着から顔を上げ、そう言った。
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