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「大丈夫って・・」
「オフロは別の場所に・・まだある」
今度は頭の中に人魚の言葉が響いた。
少し人魚との会話についてわかったことがある。
人魚は、短い言葉「ありがとう」などは口に出して言える。
だが、少しでも長文になると、分からないのか、あるいは面倒くさいのか、
その意味を思念に変えて頭の中に直接送り込んでくる。
「本当か? 他の場所に風呂があるのか?」
なぜわかる? 人魚はこの土地が初めてではないのか?
「匂い・・イオウの匂いがするの・・」
硫黄か? ここは温泉の町だったのか。
「温泉の湧き出ている場所はわからないのか?」
「オンセン?」
「熱い湯が出る所のことだ」
「正確な場所までは、わからないの・・」
俺の大きな声に、つぶらな瞳の人魚が申し訳なさそうに口で言った。
しかし・・それにしてもだ。
大きな疑問がある。
どうして、人魚は温泉で自分の脚が、二本に変化することを知っていたのだ?
だが、俺の疑問は口に出すまでもなかった。人魚は心が読めるのだ。
「温泉は、海の中にもあるの・・」
人魚は、そう言った。
海の中の温泉か。そこで人魚は二本足になっていた・・というのか。
まるで幻想の世界だな。
俺は数人の人魚たちが海の中の温泉で二本足で・・
つまり、人魚たちが、人間と変わりない姿で遊泳を楽しんでいるところを想像した。
当然、裸体だ。
「おじさん・・イヤらしい」
人魚は、俺が夢想したことが分かったかのように言った。だがその後、クスリと笑った。
それは、初めて見せる人魚の笑みだった。
これは迂闊に変なことを考えられないな。
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