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二本足
◆二本足
「近いわ」
人魚がリヤカーから身を乗り出した。
何が近いのかわからないが、俺の頭に熱い湯のイメージが浮かんだ。湯のイメージだけで俺の体が熱くなっていくのを感じた。
おそらく人魚が思念として送り込んできたものだろう。
旅館の湯、もしくは銭湯なのか? それとも、人家か。
道の先を確認した。
行く手は勾配の緩い坂道になっていて、坂の左手の山側には、由緒ある古そうな、かつ、厳かな旅館が数軒連なっている。見晴らしのよさそうな大きなガラス窓がズラリと並んでいる。
中に人は? 宿泊客はいたりするのだろうか?
だが仮に人がいたとしても、この人魚はどうする、どう説明する?
もしかすると、人魚を見るなり、魚人たちに通報されて、人魚はまた海に戻されるかもしれない。
そこで、俺の出した結論・・とりあえず旅館だったら、無視だ。俺は人魚を守らなければならない。
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