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そう決断した俺に、人魚は、ゆっくりと手を上げて、ある場所を指差した。
「おじさん、あそこ・・」
人魚の指したのは旅館の並ぶ山手ではなく海側だった。そちらは鬱蒼とした茂みと、ごつごつした岩が長く続いている。
人魚は更にその向こう、松林が綺麗に並ぶその先を指した。
あの辺りは海が近いが・・大丈夫か? 魚人がいるんじゃないか?
「だいじょうぶ・・お魚は、いない」少女はそう確信めいたように言った。
人魚がそう言うのだから、大丈夫なのだろう。
松林は海から離れているのがここからでもわかる。
そして、松林の辺りに「湯」がある・・可愛い人魚はそう言っている。
辿り着くと、
それは「足湯」のような小さな湯溜まりのような場所だった。
近くにトタン屋根の雑な造りの脱衣場めいたものがあって、ようやく湯船のていをなしている、周囲には石畳が敷き詰められている。
そう、ここは紛れもなく、俺たちが探し求めていた温泉だ。
おそらく人魚は暖かそうな湯を見て喜んでいるのだろう。その顔がほころび、リヤカーの上でぶるんぶるんと大きく尾を振り始めた。
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