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すると、人魚の思念が頭の中に聞こえてきた。
「最初はね・・お風呂屋さんに行こうとしたの・・」
そう言って人魚は語り始めた。
人魚は、硫黄の匂いを嗅ぎ分け、温泉のあるこの土地を選んだということだ、
「そこまでは私、二本足だったの」
二本足という言葉に少しドキリとした。当然、裸だったんだよな? 服は見当たらなかったしな。
また勝手に想像すると、人魚に怒られそうだ。
「陸に上がる前に、海の中のお湯で温まって足を二本にしてきたんだもの」
少女はその時の気持ちを思い浮かべるような表情をして、
「楽しかった・・私、初めて土を踏んで歩いたんだもの」と言った。
だがすぐに、その顔は翳った。
「ところが、銭湯にはあの老人たちがいたってわけか」
「見つからないうちに夢中で逃げたの・・でも、そのうちに体が冷えてきて、下半身が元のお魚になってしまったの」
人魚は追手たちから逃げて、あの茂みに逃げ込んだ。そして、次第に下半身が魚に戻っていった。それで歩けなくなったというわけだ。
そこへ俺が登場したという経緯だ。
しかしまあ・・人魚は、裸で逃げていたんだろう? よく誰にも気づかれなかったものだ。
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