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湯の匂いがすると、冷え込んだ体を温めたくなったが、それより先にすることがある。湯に入れるのは俺ではなく、人魚だ。
俺はリヤカーの人魚の上着を取り去り、体を抱え込み再びお姫様抱っこをした。
人魚は俺のすることを信用してくれているのか、俺の腕の中に従順に収まった。羞恥心もないようだ。
湯に濡れた石畳を滑らぬよう天然の湯船に向かった。
そして、下半身の鱗が傷つかぬように、湯の中にゆっくりと浸けた。
先に人魚のお尻の部分が湯の底に当たると、人魚は自ら下半身の尾を湯の中に入れ、
そして胸まで湯に浸かった。
人魚は目を瞑り気持ちよさそうな顔を俺に見せた。そして、
「オジサンは入らないの?」と言った。
俺は首を横に振った。ちょっとそれはまずい。
おそらく、人魚にとって人間の裸を見るのは初めてだろうから。
そんな俺を人魚は不思議そうな顔で見た。
湯の上に顔を出している人魚を見ていると、その容姿は人間の少女と変わらない。
むしろ、人間の女の子よりも可愛いかもしれない。
そんな人魚の湯に濡れた艶やかな黒髪が月明りに光っている。まるで何かの絵画のようだ。
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