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管(くだ)
◆管(くだ)
適当に体を洗い流し、立ち上がろうとしたその時、
男が、俺の耳に息を吹きかかりそうなくらいまで近づき、こう言った。
「あんた、女と別れてきたのか?」
どういうことだ?
この男は、俺が女と別れたことを何故知っているんだ?
俺は男が言ったことを「ただの失礼な冗談」だと受け取ることにし、洗い場を抜けようとした。
ヌルヌルする床を滑らぬように歩きだすと、耳の中に海鳴りが聞こえてくるような感覚が襲った。ここは銭湯の中だ。外の音は聞こえないはずだ。
ぬるかった風呂のはずなのに、くらくらと眩暈がした。
そして、前方を見ると、俺の行く手を阻むように若い男が立っていた。別の若い男だ。
男の立つ姿を見るなり、俺はぎょっとした。
男の腰回りには局部を覆い隠すタオルがない。いや、タオルを巻いていないことの驚きではなく、
そこにあるはずのもの・・男の股間に生殖器がないのだ。
股間は、白くのっぺりとしている・・魚の腹みたいだ。その中心には生殖器があるはずの位置に小さな穴がぽっかり開いている。
化け物だ。
男たちの体の異常は、水かきの足や、鱗ばかりではない。性別を示すその器官も異常だった。
こんな場所はうんざりだ。魚人たちで溢れかえる風呂はこりごりだ。
急ぎ足で、俺は脱衣場に向かった。
すると、慌て過ぎたのか、俺はある物に躓いて転びそうになった。
湯気で曇る足元を見ると、幾本もの半透明のホースが・・
いや、ホースではない。水のような色の柔らかな管(くだ)のようなものだ。
その中をゼリー状のようなヌルヌルの液体がゆっくりと流れている。
管は、ビクビクと細かな痙攣をしている。時折、ビクンと跳ねたりしているものもある。
半透明のせいか、今まで気がつかなかったのか。
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