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三二、事故?
ゴージャスの球団より陸のポスティングシステムによる移籍先が決まった。
腕利き交渉代理人カルロス長谷川が、交渉により落札球団はケンタッキー州にあるケンタッキー、グリズリーに独占交渉権が与えられた。
契約条件は五二〇〇万ドル【六三億円】プラス出来高四〇〇万ドル【五億円】で契約を結んだ。
ケンタッキー、グリズリーのスティーブンBM(ジェネラルマネージャー)は、「高い買い物をしたが、高橋と言う打ち出のこづちを手に入れた。
右でも左でも、こずちを振れば必ず彼はグリズリーに莫大な、裕福を沢山、出してくれるだろう。 R i k u … C o m e e a r l y【陸、早く来て!】」
ゴージャス球団には譲渡金、四五億円を受け取った。
荒川球団社長は陸に、
「君の活躍は凄かった…高橋君を手放す事は球団に取っても痛手だ。
しかし、自分の決めた人生は、私は邪魔はしない。皆んなが思ってるほど鬼じゃないよ。ちゃんと仏の気持ちも持ってるつもりだ。」
と陸に最後の握手を交わした。
しかし、本心は?だが…
陸は契約や住居探しのためアメリカ、ケンタッキー州のレキシントン行きに計画を立てた。
たまたま、明美の仕事がブルーグラス空港
行きの乗務だったので、その日に合わせ航空券を購入した。
一一月二日、福岡発のブルーグラス空港行きだった。
陸は明美には言わなかったが、おじいちゃんの命日だった事に気付いた。
陸と明美は息子の空を預けるために実家を訪れ、仏壇に手を合わせた。
「陸て仏壇に手を合わせる人だったんだぁ…」
明美は何も知らない…
「おじいちゃん、行ってくるね。」
「お父さん、お母さん、空を宜しくお願いします。」
二人は空を預け、福岡国際空港へと向かった。
空港に着いたが、明美の出勤に合わせた為、三時間も待ち時間がありレストランで食事をして時間をつぶしAM一〇時二六分のぶブルーグラス空港行きに搭乗した。
しかし、出発予定の一〇時二六分を過ぎても出発する気配がなかった。
一人の客が、CAの明美に問い掛けた。
「何故、遅れてるの?」
明美も知らされて無かったらしく、「機長から連絡が有ると思いますので、もう、しばらくお待ちください。」と丁重に謝っていた。
陸は初めて見る明美の仕事ぶりに感心していた。
その時、機長からアナウンスが流れた。
「機長の黒木です。大変長らくお待たせしました。
エンジンに不都合があり原因は解決されました。
空の旅をごゆっくりお楽しみください。」
実際はエンジンに異音がしたので整備士が点検したが原因が解らないまま、異音は治まり三〇分遅れで出航した。
明美はCAを完璧にこなし産休、育児休暇のブランクを感じさせない仕事ぶりだった。
飛行経路を確認したらアラスカ沖を飛行中だった。
その時、左側エンジンから爆発音がして飛行機は傾き、機長の黒木は自動運転から手動運転に切り替えた。
「皆さま、安心して下さい。多少の揺れがあると思いますが乱気流の影響なので安心して下さい。」
しかし、窓の外でエンジンから炎が出ている事に数名の客が気付いた。
機内は照明は消え機体は右に左に傾き乗客は恐怖に怯えた。
それでも、CAの明美は、
「大丈夫です。手元の酸素マスクを装着してシートベルトは必ず外さないようにお願いします。」と的確な誘導で最後まで業務をまっとうした。
その後、レーダーから陸達が乗った飛行機は姿を消した。
翌日、乗客者名簿の二五〇人の中に陸の名前が出た時、野球ファンはもとよりスポーツ関係者は乗客の生存の知らせを待ち続けた。
「飛行機は何処に堕ちたんだ…」
「おそらく、アラスカ沖だと思います。
アラスカ沖からレーダーから外れました…」
懸命な捜査で機体がバラバラになった飛行機が発見された。
「生存者がいたぞー」
二五〇人の乗客の内、一八名の生存者が発見された。
生存者のほとんどが前方部の入口付近に座っていた人達で、その中に明美の名前が入っていた。
残念ながら陸の名前は無かった。
今世紀最大の飛行機事故のニュースで国民に激震が走った。
「高橋陸が飛行機事故で亡くなった…」
高橋陸(二四歳 没)
奇しくも私と同い年で同じ命日になるとは…
明美は奇跡的にかすり傷程度の軽傷で発見され、帰国の途に就いた。
「多くの犠牲者が出てるのに、何故、私が助かって生きてるの…?」
明美は、どうにもならない悔しさに悩み苦しんでいた。
しかし、マスコミは明美を非難する記事や夫婦不仲説まで流した。
【乗客を残しCA一人、生還!そのCAは高橋陸の妻。】
【高橋、一人寂しく単身赴任、妻の実態】
など、週刊誌に事実とは異なる事も書かれた。
明美は精神的に疲れていたが、テーブルの椅子に座った、一歳を過ぎた空が微笑んでいる。
明美は陸と過ごした年月を思い出した。
「陸、ごめんね…私、わがままばかりで…
CA続けさせてもらって、ここで落ち込むなんて変よね…
空が生まれた時、陸が私みたいに空をか駆け巡るようにと、空て命名したよね…
でも、皮肉にも、陸が空で亡くなるなんて…」
私が強く生きないと空はどうなるの…明美は空の微笑んだ姿に元気をもらった。
陸の書斎を整理していたらポップ曲のCDの中に一枚、中島みゆきのCDがあった。
陸はよく、風呂場で中島みゆきの時代を口ずさんでいた事を思い出した。
飛行機の損傷が激しく、陸の遺体が発見されないまま飛行機墜落事の二週間後に告別式が始められた。
葬儀場内には有名人や著名人、多数駆けつけ、葬儀場の外にも大明ナイン、クラスメイトが揃い葬儀場のBGMは、時代の曲が流れた。
「今でも陸、忘れてなかったんだね…」
クラスメイトは過去を振り返えり涙を誘った。
龍馬が友人代表で弔辞を読んだ。
「陸、何回もかけっこしたね。速すぎて一回も勝てなかったけど、今回は速過ぎで違反だよ…
あまりにも早すぎるよ…
永遠のライバルで最高の友だったのに…
最初、何を、やってもやる気が無かった陸が急に変わっていったよね…
あれは奥さんの明美さんの力だろ…
おはよう!とか皆んなに言いだすし
最初は二重人格かと思ったけど、奥さんの明美さんを見て解ったよ…
明るくて、いつも陸を勇気づけていた。
だから陸は変われたと思った。
つい一か月前、陸とたくさん話したよね…
進む道は違うけど励ましあった、あの日を僕は絶対に忘れない…」
テレビにも龍馬の弔辞が流れ、誰も明美を悪く書くマスコミはいなくなった。
龍馬の明美を気遣う思いか、本当の気持ちかは解らないが…
皆んなが涙する中、一人違う涙をこぼしていたのが、スティーブンGMだった。
「打ち出のこづちが無くなった… O h m y G o d【何て事だ…】
そして、支払った五二〇〇万ドルはどうなるんだ。
「空、しっかりボールは両手で取りなさい。
沢山、練習したら、パパみたいになれるよ。
ひいおじいちゃんもずいぶん昔、プロ野球の選手だったんだって…」
明美は見上げ指さした。
「見てごらん。パパが空の事をずっと見守っているよ。」
「パパ〜」
明美は空を抱きしめ、沈み行く夕日を眺めてた…
一九四四年、アラスカ沖
私は、目を覚ますと知らない風景が広がっていた。
「しかし、寒い…ここは、何処だ。
そう言えば、私は戦闘機でアメリカの航空母艦と激突したはずだが…
しかし、あれは太平洋沖だったはず…
何故、私は生きてる?」
「あれっ…ここは何処?寒い…
何だ!これは…俺、兵隊みたいな服着てる?
??確か飛行機が傾き激しい衝撃で痛みを感じたはずだが…」
「も、も、もしかして、おじいちゃん?
おじいちゃんの脳に俺の脳が入った…?」
「誰だ!お前は…気持ち悪い!」
そして、時代はまた、繰り返される。
ーおわりー
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