脳ストライク2ボールおじいちゃんと一緒

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         三 僕の体におじいちゃん?     「こ…こは、何処ですか?貴方は誰…?」  陸は回りを見渡しながら、強く握りしめた両手が緩み、自分の頬と頭を触った。  陸は変な状況に気がついた。    義男は小百合と目を合わせ、 「目が覚めて、いきなり敬語か…初めて聞いたぞ、陸の敬語、あははっ…  お前がバイクで転倒して頭を強く打って、この一週間、意識が戻らなかったんだぞ。」  陸は、ぼーとした顔で今、自分が喋った言葉を疑った。  何故なら自分の思った事じゃなく勝手に口から出てきた言葉だった。 「そう言えば、あの時、バイクが転倒してその後…」 「私は戦闘機に乗り込み…何故、何故…、私は生きている!…ここは、いったい何処ですか?」  周りも意味が解らなかったが意識が戻ったばかりで夢でも思い出したんだろう…としか思わなかった。  しかし、一番、呆然してるのは陸であった。  俺の体の中に誰かがいる。  勝手に自分の口から誰かが喋っている。  陸は、布団に潜り込み 「すみません。今は喋らないで下さい。」    陸の体に入り込んだのは、私、高橋和則だった。  私自身も全く理解出来なかったが、陸に従った。  その日は家族と明美が帰るまで私は喋らず我慢した。  その夜、陸と私は自分の事を、ゆっくりと話し合った。  恐らく、はたから見ていたら、滑稽な感じだろう。  まずは陸の生い立ちを聞いた。  しかし、歯切れの悪い喋りだ。  こいつは、軍隊に入っていないのか?  こんな、人間は初めてだ。  話も、なかなか前に進まない。ただ一つ、解った事は父親の名前は、義男だと言う事。  私の息子と同じ名前だ。  しかも高橋とは…偶然とはあるものだ。  さっきまで居た、友達は誰だ? 「あーっ、俺の彼女だよ。」  彼女??恋仲て事か?お前は男が好きなのか? 「あの子は、ちゃんとした女の子だよ。少し気は強いけど。」  信じられん!あれが女?ズボンも履いていたし、髪は短い、どう見ても男にしか見えん!   「そして、俺、高橋陸。   あんたの話も聞いてあげるよ。」  私は、陸のタメ口にイライラの限界を超えていた。 「お前は国民学校で何を学んだ!立派な兵隊になりたくたいのか?」  陸はキョトンとして、 「んっ…意味わからん!」  私はイラ立ちを感じながらも、自分の生い立ちを話した。  私が職業野球をしていた話から結婚して子供が生まれ入隊したまでを陸に話した。  陸は笑い転げた。 「今は二〇〇〇年だよ。SF映画じゃあるまいし…あんた、頭おかしいよ。急に怒り出すし…」  私は唖然とした。 「私は一九四四年一一月二日、特攻隊として航空母艦に激突する瞬間に春江と義男の名前を叫んだんだ。  その後…私はお前の体に入ったのか?」  陸も信じれない表情に変わった。 「義男は父、そして、おばあちゃんの名前が春江だよ。五年前に七五歳で亡くなったけど…  俺も、バイクが転倒して気付いたら、俺の中に誰かが…もしかして…  おじいちゃん…?」    陸と私は、何となく、今の現実を少しずつ理解してきた。 「我が日本国は勝ったのか?」 「負けたよ。かなり昔にね。」  すなわち、私は時空を超え五六年後の未来に来たってことか…信じられない。  そして最愛なる妻は、もう、この世には居ない。  苦労を掛けたな…春江。  そして、さっき、ここに居た、お前の親が義男か…?  赤ん坊だった、あの子が父親に…  そして、私と陸との奇妙で摩訶不思議な生活が始まった。
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