脳ストライク2ボールおじいちゃんと一緒

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     三三、それぞれの道    その後、鬼塚先生は学会で発表し、世界を揺るがすセンセーショナルを巻き起こした。 「突然、脳が二つ?」 「血縁関係のお爺さんの脳が?」 「三年間で脳が小さくなって消えた?」 「本人と、もう一つの脳のお爺さんが会話するだって?」 「そんな人間、本当に居るのか?…」 「顔を出せよ!誰なんだ!」 「あり得ない…」 「MRの画像はインチキだ。」 「そこまでして、地位や名誉が欲しいのか?」  世論は学会で発表した鬼塚先生を疑いの目で見始めた。  テレビやマスコミは、連日、この話題で盛り上がり疑惑の鬼塚まで言われるようになった。  見かねた陸は、鬼塚先生に自分が当事者である事を名乗り出ようと持ち掛けたが、断固として鬼塚先生は拒んだ。 「陸君の気持ちは有難いが余計にマスコミは騒ぎ、おもしろおかしく騒ぎ立てるだけだ。  しかし、私は諦めない。事実がある限り医学は追求して行かないと先には進めない」    しかし、医道審議会では、鬼塚先生の医師免許、剥奪の話まで進んでいた。    ワトソン医学博士は自分にも疑いが掛かる事を察知しアメリカに帰国した。 「I d o n ' t k n o w a n y t h i n g 【私は何も知りません…】」       ー六年後ー  二〇〇九年一〇月  私は天国に来て六年?いや、六五年が経ちそれぞれが自分の道を進み出した。  陸はプロ野球生活を順調に歩みスター街道を爆進中。  右肘は直ぐに治り、翌年には右で投げ、左は封印した。  周りは、両投げに期待していたが、陸は自分を貫き右投げ一本で勝負をした。    二年前に明美と結婚し昨年の暮れに、私のひ孫の空が誕生した。  明美は結婚後も福岡でキャビアテンダントの国外線の乗務を続けており来月から仕事復帰予定だ。  シーズン中は陸は単身赴任でゴージャスの寮で龍馬と寮生活を送っていた。   「明美、俺、メジャーに挑戦するよ。  明美も一緒に行かないか?  空も家族が一緒の方が良いと思うんだけど…」 「それは、陸の世間体を気にしてるからでしょ!  私の昔からの夢だったCAになって、やっと仕事に慣れて来たのに辞めるのなんて嫌よ。  メジャーに行ってもオフに日本に帰って来たら空にも逢えるし良いじゃん。  こっちにいた方が私の親や陸の親が助けてくれるし楽なのよ。  どっちの親も毎日、孫の空に逢えるしね!」 「……」  陸は数球団からメジャーのオファーが来ていた。  ポスティングシステム(入札制度)を利用してゴージャス球団に交渉に入った。  多額の譲渡金がゴージャスに入って来る事を考え荒川球団社長は渋々OKを出した。 「仕方ない…高橋には、いっぱい稼がせて貰ったからな!最初はタダ同然だったしな。  よくやった、三嶋監督ちゃん!」     そして龍馬はゴージャスのエースに成長した。  ゴージャスは、この六年、エース龍馬を中心に中継ぎの前田、抑えの陸の活躍で六年連続でAクラス、今年は優勝を逃したが昨年は念願の日本一にも輝いた。  龍馬はゴージャス愛が強いらしく一生、ゴージャスに尽くすと言っている。  実家、福岡の久山町には福田御殿が建ち、地元では有名な観光スポットになっている。  女手一つで育てた龍馬の母は未だパートを続け龍馬に頼らず、妹の真美を東京の大学に出し頑張ってるが、突然、最近になって別れた元旦那から頻繁に連絡が来るらしい。  久しぶりに陸は龍馬と居酒屋で飲み明かした。 「昔は、よくグランドの土手や学校の屋上で話したよな。陸、やっぱりメジャーに行くのか?  高校から、ずっと一緒だったから何年経ったかな? 」 「うん。メジャーに挑戦しようと思う。  早いね…もう九年かな?  いろいろあり過ぎて…最初、龍馬の練習を観に行った時、エラーした先輩にグローブ投げてイラだっていたよね。  それが今では、ゴージャス愛だよ。  人て変われる物だよね。」 「今になっては、陸が居てくれたから成長出来たと思う。  プロになってからだって自分が壁にぶち当たった時、何気にアドバイスしてくれて…  あの時、実は青柳監督に相談に行ったんだ。  青柳監督は陸に聞けて言われた。  ちょっと、陸の活躍に嫉妬していた自分がいたけど…  最高の親友でありライバルだから俺は成長出来たんだ。」 「これからはチームは変わるがお互い頑張ろう!」  二人は、朝まで友情を深めていた。    そして義男は定年後、近くのソフトボールのチームの久山ファイターズに入った。  ほとんどの人が六五才以上で定年を迎えた人達が揃い平日も練習を行なっている。 「高橋さんの息子さん、もしかしてゴージャスの抑えの高橋陸?凄いなぁ…  高橋さんも、きっと上手いだろうなぁ…」  義男は野球経験がなく運動神経もさほど良くなく健康のために入ったのに周りの期待は大きかった。  しかし、直ぐに実力が判明した。 「高橋さん…ドンマイ!ドンマイ!」    小百合も仕事を辞め、ヨガの教室に通ったりと相変わらず忙しいが義男との時間も増え二人だけの生活を楽しんでる。  それと義男が作った陸のアルバムはすでに一〇冊を超えた。  そして、大明学園から陸達と一緒にプロに入った牟田は大成せず一年前に自由契約になり実家の家業を継いだそうだ。  ゴージャスの坂本も最後まで悩み続け結局、自由契約になった。  甲子園で対決した猿渡は結局、肘が治らず翌年もドラフトで指名されずに定時制も辞めたと聞いた。  プロは厳しい所だ。  大成するのは、ごくわずか…  青柳監督は、大明学園で監督をしながら、本を出版した。  【よき監督のススメ】龍馬や陸などの教育指導した実話が書かれているが、ちょっと自分に酔いしれている感はあった…  そして鬼塚先生だ。  取り敢えずは医師免許は剥奪されずに済みマスコミの報道も時間と共に忘れ去り、今は離島で診療所を開業し細々と暮らしている。  しかし、陸の研究は今も諦める事なく進めている。  トミーは高齢のため体力が弱り引退。  代わりにインド像がサッカーボールを蹴りレフトからライトまで走っているが、いまいち迫力不足で企画倒れみたいだ…。    そして最後に私、天国の上で皆んなを見ているよ…。    
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