XIV 幕間

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XIV 幕間

「この、駄犬め。言うことを聴け」 最初は言うことを聞いていたワーグであったが、騎乗したのがローであると分かると暴れだし、なかなか前に進もうとしなかった。 ワーグは自らの言語体系を持ち、ハイたちとは契約により協力関係を築いている。ハイたちはワーグの言語を解し意思疎通が取れるが、ローであるジルカにはそれが無理であった。 なだめすかして何とかここまで来たものの、振り落とされてしまった。 ワーグはどこかへ走り去って行く。 「くそっ」 目的地である女王の城まで、まだ距離がある。 ─とにかく急ごう。ジルカは走るのに邪魔な武具を投げ捨てて城へと走り始めた。 一心不乱に駆け続けていると向こうから騎乗の影が見えた。人間たちがもうここまで?と警戒したが、その影の主はダークエルフであった。 「ポヴィヤ殿」 「そなた、ここで何をしている」 「…人間どもの攻勢が思った以上に強く、加勢を城に申し立てに行くところです」 「ほう。奴隷どもをみなオークに変えてやったというのに、それでも人間たちを駆逐するに足りないのか。  それに何故、徒(かち)なのじゃ?緊急伝令のときはワーグの騎乗が許可されるはずじゃろ?」 しまった、と心の中で舌打ちした。 ポヴィヤは目を細めて、こちらを見つめて来る。 〈そういえば何故こいつはここに居る?ここから先は戦場だ。まさか戦線に加わるのか?〉 「さっき、『人間ども』と言ったが、攻めてきているのは人間だけかえ?」 「…いえ、人間とエルフの連合軍が攻めてきています。  エルフが人間と組むなど有り得ないと最初見たとき目を疑いましたが」 「やはりそうか」 ポヴィヤは考え込むような素振りを見せる。 今までの彼女であったら常に余裕を持った、会う者を蠱惑するような雰囲気を備えていたのだが今は違う。 「分かった。もう行ってよいぞ」 「はっ?」 「どうした。急いでるのではないのか」 「い、いえ」 拍子抜けにも何の咎めも無く通された。ポヴィヤの姿が見えなくなるまで距離を取ってから後ろを振り返る。 あの様子は一体…? 「やはりか…」 ポヴィヤは悲しげに呟いた。 少しの間沈思した後、馬を戦場へと向ける。馬の歩みに任せたその速度は主の躊躇いと戸惑いを表しているかのようだった。 オークの猛攻は予想以上のものだった。 ハイ・オークの悪名高い指揮官ラーツの下、オークたちは能く統制され、サイルウェグを要とする陣が囲まれそうになることが度々あった。 「なんだよこれ、さっきの奴らとは段違いの強さじゃねえか」 「口を動かす前に手を動かしてくれガドロン。サイルたちを囲ませるわけにはいかない」 「わーってるよ。愚痴くらい言ってもいいじゃねえか」 歩兵が固まり、騎兵を左右に展開したコルニ陣営の陣形が翼を広げた亀のような形であったのに対し、ラーツは複数のハイを中心とした数隊に分け、焦点が一つの方向に定まらないように仕向け、敵の攪乱と隙あらばサイルウェグたちを囲むような作戦を採っていた。 「公、このままでは数に負けるこちらが劣勢を強いられ続けます。こちら側も兵を小分けし、敵に当たらせてはいかがですか」 「ダメだ。この混戦の中でそのように陣形を変えると各個撃破される危険性がある。それに複数に分けてもそれを指揮する将が居ない。  くそ、モスクフ国の侵攻がなければ、子飼いの近衛兵を呼び寄せ、指揮に当たらせることができたものを。  エメル殿、エルフ兵に指示して、ラーツや指揮するハイたちを狙うことはできないか」 「やらせてみますが、オークの守備が固く、効果があるかどうか」 「それでも良い。オークたちの攻勢がそれで少しでもひるめば儲けものだ」 「公!」 「カラド殿、無事か」 「作戦が聞こえました。我々エルフ騎兵が弓騎兵となり、ハイたちを射掛けるのはいかがでしょうか。歩兵が射るよりも敵を攪乱できると思います」 「可能か。騎乗での弓はかなり難しいぞ」 「嘗めてもらっちゃ困るぜ。俺たちを誰だと思ってるんだ」 「ガドロン、少しは口を慎んでくれ」 「いや、頼もしい。エメル殿、我々は二手に分かれ牽制を続けよう」 「了解しました」
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