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Ⅲ オーク 女王の夜伽に呼ばれる
「なんだこんな夜に」
ダリアがいぶかしげな目を扉の方に向ける。
「お前はテーブルの下に隠れていろ。いいか、絶対そこから顔を出すなよ」
「分かった。分かったから頭を掴むな」
トビラが先程より強く叩かれる。
「トビラが壊れる。強く叩くな」
ジルカが中を見られないようにトビラを開けて外に出ると、そこには二足歩行するブタとしか形容できないオークがいた。
「よう、兄弟〈ブラト〉。元気か?」
「用件はなんだ」
「おいおい、つれねえな。挨拶くらい返せよ。さっき、中から何かお前以外の声が聞こえた気がしたんだが」
「いいから、用件を話せ」
「なんだなんだ隠さなくたっていいんだぜ?兄弟。奴隷を捕まえたら上の奴らに引き渡さないといけねえが、黙ってたって構いやしねえんだ。
何、俺に黙っていて欲しいなら、ちょいと一晩貸してさえくれれば、それでオーケーよ。ずっと飼っていた奴隷がこの前死んじまってな」ブタが下卑た笑みを浮かべる。
「ここには俺一人だ…で、何のようだ」
「あくまでしらを切るってのか…?」
ジルカとブタがにらみ合う。
「ちっ、女王様のお気に入りだからって調子に乗ってやがる…“お呼び”だ」
「またか?この前、“お相手”したばかりじゃないか」
「お前じゃないとダメなんだとよ。ふん、ここんとこお前ばかり呼ばれてんな」
「…分かった。すぐに城へ向かう」
「おい、今夜一晩この家空けるんだろ?その間、俺が奴隷をかわいがってやろうか」
「何度言えば分かる、奴隷などここには居ない。
これ以上、突っかかるのなら…」
ジルカは腰の短刀に手を掛ける。
「分かったよ。そんなに怒るなって」
ジルカはブタが去ったのを見届けると、中に戻った。
「どうした。何か立て込んだ話をしていたようだが」
「女王に呼ばれた。今日はここまでだ」
「呼ばれた?こんな夜中にか」
「帰ってくるのは朝になる。いいか、俺が戻ってくるまで絶対に物音を一切たてるな。灯りも付けるな。
それと、俺が居ない隙をねらって逃げ出そうと思うなよ?傷もまだ完全に癒えてない上に、右も左も分からない状態で逃げ出すことは不可能だ」
「分かってる。いちいち言うな」
ジルカは壁にかけてあったシャツとズボンを身につける。
ジルカが外に出ると、呼吸の度に肺が凍りそうな夜気を感じた。
月は皓々と輝いているが、死蝋のような鈍い白さで、見る者に何の感慨も与えない。
女王の城は灰海を望む断崖の上に建っており、登城する道が正面の一本道しか無い天然の要塞となっている。
オークが住み着く前、この城は燕の巣〈ラストチキノ・グネスド〉城と呼ばれていた。
不夜の番兵が衛る門を入り、城の中に入る。
城内に炬火の類いは一切無い。オークは夜目が利くからだ。
常人には歩行困難な闇の中をジルカは迷うこと無く進む。
女王の部屋へ向かう途中で、背後に足音が聞こえ、反射的に腰の短刀に手をかける。
「そう身構えるな。私だよ」
「ポヴィヤ殿…」
振り返ったそこには、豊満な肉体を持った女が居た。肌は浅黒く、耳は鋭角をかたどっている。
「失礼、軽い殺気を感じたもので」
「軽い殺気を感じた程度でそこまで警戒するのか?」
「以前、城内で襲われたことがありましたから」
「ふふ。オークというのも大変だな。何より信頼できないのが他ならぬオーク自身だとは。
襲われたと…そういえば、そんなこともあったな。
その理由は確か…そうだ、お前ばかりが床に呼ばれていることへの嫉妬だったか」
「よく、そんな些細なことを覚えておいでで」
「何、女王を虜にしているというそなたの手管が気になってな」
彼女は腕を組み、巨大な乳房を強調する。
「興味がおありとあらば、呼んでいただければお相手しましょうが、生憎、今は女王に呼ばれていますので」
「お前は面白いの。普通のオークであったら、女王の命令などより、目の前の餌に食いつくものであろうに」
「失礼」
ジルカは足早にその場を去った。
城の一番奥、窓から灰海が見渡せる女王の部屋。
かろうじて音がする強さでノックする。
「入れ」
中から聞こえる高い声〈ハイ・トーン〉。
部屋の中程に置かれた天蓋付きの巨大なベッドに女王は腰掛けていた。
金色のティアラと赤いビーズのネックレス以外、何も身につけていない彼女の裸体を傍らの燭台が仄かに照らす。
ポヴィヤの熟し切った肉体とは真逆の申し訳程度のふくらみが付いた人形のような肉体。
見た目だけで言えば、一二、三歳ほど。見る角度によってはさらに幼く見える。
「お待たせいたしました。我が君」
「ああ、そんな形式ばった言葉遣いは止めろと前にも言ったではないか。私の事はトラヘディヤと」
「しかし…」
「ああ、もういい。はよ、こっちに来い。我慢の限界じゃ」
彼女は手招きをし、待ちかねたように体を開く。
ジルカは手早く衣服を脱ぐと速やかに彼女へ近寄り、ふくらみかけの胸のあたりをやや乱暴につかむ。
「ああ…」
彼女は感覚に身をゆだね、心地よさそうに目をつぶる。
ジルカの指先が体をなぞると、薄い柔らかさの中に二つの固い突起が現れる。それを口に含むと、舌先でかすかに転がす。女王はそこから喚起される甘い感触に体を震わせた。
女王は丁寧に舌を動かすジルカの頭を両手でつかむと、そのまま抱きしめた。
「はぁ…はぁ…」
女王の弱々しい束縛をはがすと、口先をそのまま下へと持って行く。萌え出でたばかりの草原のようなそこにたどり着いたとき、そこは湿地のように濡れていた。漏れ出たものをすくいとるように舌を上下させ、なかに突き入れ前後運動を繰り返す。
口の端からこぼれるほどの液がとめどなく流れ出る。
女王の口から途切れ途切れに短い歓声が漏れ出る。
「はよう…私のなかに…」
すぐに口を離し、彼女の腰部を優しくつかむと屹立したそれをやや窮屈な彼女の中にねじ込む。
「ああ!ああ!」
悲鳴のような、嗚咽のような絶叫。
苦痛にもだえるように身をよじらせるが、躊躇無くジルカは打ち付け続ける。
いつしか女王は口をだらしなく開け、犬のような浅い呼吸を繰り返すようになる。
頃合いであった。
先ほどから突き抜けようとしていた衝動を遠慮無く放出する。
眼下の幼女は壊れた自動人形のようにわななき、止まった。
ジルカが抜き出す瞬間、かすかにその体がのけぞる。
営みは終わった。女王は好色ではあるが、その衝動を長く維持することは無い。
傍らに座り、軽く息を吐くとジルカは目を細め、揺れ続ける燭火をしばらく見つめた。
女王は眠り続けている。寝返りを打った拍子に股を薄紫色の液体が伝った。
それをシーツでぬぐうと、起こさぬように静かに部屋を去った。
「ふぅ…」
家に着き、ふと息を漏らす。青白い月光が部屋に差し込んでいる。
「帰ったか」ダリアが眠そうな目をこすりつつ出てきた。
「まだ寝ていなかったのか」
「オークの巣窟のど真ん中に一人残されてそう易々と寝られるか」
「…案外、神経が細かいんだな」
「なんだと。うん?貴様、泣いてるのか?」
「俺の顔が見えるのか?」
夜目が利くオークならともかく、月光の影になっているジルカの顔が見えるはずがなかった。
「いや、なんとなく…しかし冷血なオークが泣くはずも無いか。錯覚だな」
「……」「……」
なんとはなしに沈黙が訪れる。
「…貴様も帰ってきたことだしもう寝るか。本当に私がベッドを使ってしまっていいんだな?」
「意味のない問答だな。なんら問題はない」
「貴様が床で、捕虜の私がベッドだと」
「なんだ、一緒に寝ろとでも言うのか?」
「ば、ばかなことを言うな!オークと褥をともにするなど」
「大きい声を出すな。いいから、もう寝ろ。明日も今日の続きだ」
ジルカは家の裏口から井戸へ向かい、衣服を乱暴に脱ぎ捨て、頭から水を被った。
屈強な体を持つオークでさえも、震えてしまうほどの冷たさであったが、構わずに何度も水を浴び続けた。
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