ベリアル

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ベリアル

白のマークをつけた敵が両手剣を持って向かってくる。狙いは俺の方。予測通りだったので俺は、ほんの少し笑みを浮かべた。 ロキが大盾と共に持って俺の前に走り、敵の攻撃をガードした。次はこっちのターン。 予想どおり盾は男の方に動いた。俺は女の方を狙った。斬る。 盾の操作プレイヤーが死んでしまえば防御はできない。攻撃が成功したら、攻守の交代はない。俺はそのまま、もう一方を斬った。 WIN-黒の軍 LOSE-白の軍 これはゲーム。白と黒のバトルフィールドで敵がどこを攻撃するのかを予測し、盾を動かす。防御に成功すれば攻める権利が与えられる。 相手の顔が見れるから、ほとんど心理戦。事前の尾行で相手の性格をどれだけ把握できるかが鍵である。邪道な奴らは、弱みを握って脅したりもするらしい。 俺とロキはこれで5連勝。まだ一度も負けたことはない。 パチパチと拍手が聞こえた。 俺は首だけひねって、音のする方を見た。 「いやあ、見事なお手並み!ブレない腕!ワタクシ、感服いたしましてございます!」 「誰?」 俺はロキを見た。ロキは、ぷいとそっぽを向いた。俺はロキを庇うように立ちながら、もういちど相手を見た。白と黒の混在する帽子に、金色のメガネ。男とも女ともとれる声。黒の軍勢なら味方、白の軍勢なら敵であるが、見えるところにマークがない。 「いやあ、ワタクシ、ベリアルと申します。虚飾のベリアル。こちら名刺。はい、ドウゾ」 名刺は白と黒のチェックで出来ていた。天使軍は白の名刺、悪魔軍は黒の名刺を使っているらしいけど、こういうお洒落をする人もいるのかな。 「いやあ、実はラファエル軍がお二人を欲しいと、仰っていましてねえ。どうですか?いきなり七大軍の仲間入り」 俺とロキが黒の軍勢としてゲームに参加していることは装備を見ればわかるはずなのに、非常に怪しい。 「…スカウトにしては早すぎないですか?」 「あっはっは!優秀な人材が欲しいのはどこの世界も同じなんデスヨー。強い人ほど、早めにスカウトの声がかかるのは当たり前デス」 ベリアルは、メガネの位置を片手で直しながら、俺をみて、それからロキを見た。 ロキはそっぽを向いて、名刺をくるくる回して遊んでいる。ロキは恥ずかしがりだから、他プレイヤーとの交渉はいつも俺の仕事なのだ。女性だし、色々警戒したいんだと思う。 「ラファエルって天使軍だろ?お断りだよ。俺は正規のルートで上に行きたいんだから」 「アラ!頭脳明晰!眉目秀麗!是非、欲しい!上に行くなら、裏道だろうと、なんだっていいと思いまセンカ?近道するのってとっても賢いデスヨー?」 俺は剣を前に振った。 「うぜえよ。さっさと散れよ」 ベリアルは帽子を右手で押さえて後ろにとんだ。 「アララ、お気に召さないかー・・じゃあどうしよっかなー。天界から目障りって言われてるんダヨネエ。オタクラ…」 ベリアルはカードをパラパラと手で遊んで、こちらに一枚、投げつけた。 足下に刺さったカードには鎌をもったドクロの絵の下に「死神」と書いてあった。 「次のカード次第では消しちゃおうカナァ…頑張ればバレずにイケそうだし…」 静かに言われたのだが、背筋が冷えた。 俺は剣を近くに引き寄せ、防御の体勢をとった。 ベリアルはまたカードをパラパラと上から下に流して、一枚ひいて、そのカードをみて唇を尖らせた。 「ウーン…教皇かあ…。上からみても、下からみても、アタシは一旦、下がらないといけないなあ…」 ファーあとあくびをしながらベリアルはカード全部を宙に投げて、そのカードに包まれるようにしながら姿を消した。 ロキはしゃがんだまま、俺を見た。 「行ったか?」 「ああ、うさんくさい奴だったな。初心者狩りの一環なのかな」 地面に突き刺さった死神のカードを拾おうとおもったが、手を伸ばした瞬間に風になって消えてしまった。たぶん、俺たちがまだ知らない、アビリティかジョブか、そういう類いのものなのだろう。
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