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最終話の2つ前
「さてと、魔王も倒せる最高のジョブが見つかりマスヨー!」
俺たちは、森の奥にある小屋にやってきた。
「こんにちはー!ジョブクリエイター!」
「?」
ベリアルは意気揚々と、勝手にドアを開けて入る。しかし、誰の姿もない。
「えー困ったなあ。その辺にいマセン?探してみまショウ?」
木製のログハウスのような部屋には、温かな暖炉に、テーブルと椅子が一つあった。なか外を見たそのとき、
「こんにちはー♪」
愉快な顔で魔王ルシファーがやってきた。ロキも一緒だ!ロキは俯いている。なにか酷いことをされたのでなければよいが。
「ロキ!大丈夫か、心配していたんだぞ」
俺はロキに駆け寄った。肩や頬を触る。懐かしい、ロキの顔。銀髪が揺れる。ロキは俯いたままだ。
小屋にあるタンスを漁っていたベリアルもこちらに気がついたようだ。
「あらイヤダ。この辺りは隠れ里なのに…千里眼のアビリティでも持っているんデスカ?」
「んー♪君が言うなら持っているんだろうねえ?」
ベリアルと魔王が睨み合う。俺は両手でロキの肩を掴んだ。
「ロキ!どうした?俯いて。こっち見ろよ。酷いことされてないか?」
ロキは俯いて黙っている。
「やだなあ♪丁重にもてなすに決まってるじゃん?アルケミスト様だよ?」
「ああ、良かった、俺、ロキが心配で…」
「魔王…」
ベリアルの言葉を遮って、魔王はバトルフィールドを張った。
「天使と悪魔が出会ったら…ってね♪ジョブクリエイターの入れないバトルフィールドで話しましょ?」
赤と黒のチェックが織りなすバトルフィールド。紅い背景にチェスの駒が宙に浮いている。
「え…これがバトルフィールド?」
「ああ、俺魔王だし。ボス戦の演出だよ。もし、君たちが俺を倒したら、ゲームクリアで、天使軍の勝ちだよ」
ゲームクリア?もう?俺は戸惑った。
「あの、俺、ジョブもまだで…準備してからボス戦したかったんですけど」
「うーん。だってねえ、またチートな職を得られたら厄介だし…。魔王的には、ここで潰したいんだよねえ…?ちなみにこれ、逃げられない戦いだから♪」
腹を括るか…。
「よくわからんけど!がんばろうぜベリアル!」
ベリアルは黙っている。
「どうしたんだよ!いつもみたいに、勝てますよって言ってくれよ!」
魔王はアハハ!と笑った。
「あんまりいじめるなよ!そいつ、現実で不可能なことを口にしたら死んじゃうんだから♪」
「は!?なんで?占い師にそんな制約…。おい、お前占い師なんだよな?」
ベリアルは片手を頬にあてて黙っている。魔王がイライラしたように言う。
「その聞き方じゃあ、生ぬるいね。尋問だ、ベリアル。君のジョブはなんだ?」
「…預言者デスヨ」
魔王は片手を口元にあて、笑いながら解説した。
「預言者は言った言葉を成就させる。もし、君の言葉が成らなかった場合、制約により預言者は残酷な刑に処されてゲームオーバー。それゆえ、ゲーム上で起こり得ることしか口にできないし、君の動き自体はそのタロットに決定を委ねねばならない。君の言葉に一番縛られているのは君自身ということだ。…制約の重さには感服するよ?職業魔王にかかる制約だって結構多いけど、君ほどじゃあない…平和的に引退もできるしね」
ベリアルが言う。
「魔王…アタシはすまなかったと思ってイマス。その…」
「ああ。いーのいーの♪気にしてないよ♪君がつい、力を試したくなって、ベルゼブブとベルフェゴールが同士討ちする預言しちゃって、マモンが止めようとして3人死んじゃった件でしょ?いーのいーの♪」
「しかし…」
「うん。だからさあ、君たちが姉妹で潰しあってくれる様が見れればそれでいいの。それでおあいこだから、許してあげるよ♪」
魔王がこちらに暗い笑みを向けた。ベリアルとロキは黙って俯いている。
「な…姉妹で潰しあうってそんな…」
「さ、君たちのターンだよ。どーぞ?ああ、俺のターンはまず俺から攻めるから、そんなに考えなくって大丈夫。君みたいに相手のターンを使うことはできないから、いずれにせよ、その次でロキは死ぬけどね♪」
魔王は笑う。赤い風がふいて、魔王の緑の長髪が揺れる。
「ロキは俺の盾だから戦わないといけないし、一度ペアを組んだ彼やアンタと戦うのも義理に反する…いずれにせよ、世界の歪み全部をその身にうけて、ゲームオーバーも許されず、苦しむことになる。…それを避けるには、君が何か預言するしかないだろうけど、実現不可能な預言を、恣意的にするのは君の職業倫理に反して、残酷な刑罰の末にゲームオーバー…」
バトルフィールドの外側。赤い霧の中で下から上に浮かぶチェスの駒。黒のクイーンを掴んで握りつぶすようにしながら、魔王は続けた。
「ロキのアルケミストだって、義理を通さなければ咎持ち確定とか、なかなかに重たい…俺はさ、そういうのが設計ミスだと思うんだよ。アルケミストだの、予言者だの、そんな職業反則じゃない?君らの存在が世界を揺るがしてるんだよ。素直に消えてくれないかな?」
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