天使の酒場

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天使の酒場

悪魔の酒場を追い出された俺は、少なくとももう魔王軍ではないわけだ。黒の酒場へのアクセスは拒否されている。魔王軍でなくなっただけでなく、黒の軍勢ですらないわけだ。 たぶん、ロキとのパートナー契約も解消されている。 でも、ロキは放って置けない。 それで仕方なく、天使ギルドまできた。天使軍の酒場は教会という設定なのでフリーの状態でも入ることができる。 でも、もし、俺を恨んでいる人がいたらどうしよう。緊張しながら扉を開ける。誰も俺を見ない。そもそもゲームを始めたばかりだし、さっき酒場で会った天使軍はみんなゲームオーバーになってしまった。自意識過剰だったかな、と反省する。 俺は酒場を見渡した。 (話しかける奴がいないのも困るんだよな。) 立ち止まっていると、後ろから扉が空いて、知っている奴がきた。 「あれま。」 「げっ!」 白黒チェックの帽子に金の額縁のメガネ、派手な化粧…。ベリアルだ。 「まあ、せっかくの縁デスシ、相席しましょうかね?どうせ勝手わからないデショ?お姉さんにお任せなさいヨ」 俺は促されるまま、テーブルについた。美しき妖精のミツという名前のリンゴジュースと十字架の聖餐という名前のパンをごちそうになる。 「本当にきたぜ、あいつ」 「やっぱり本物なんだな」 知らない天使から噂される。気まずい。 「あ、あの。」 「そっちの事情は把握シテマスので、説明は不要デスヨ?」 「・・あんたの目的はなんだ?」 「ゲームを抜けサセテあげようと思ッテ」 ベリアルは頬杖をついて、俺を眺めている。 「あんた今、黒でも白でもないデショ。このまま平民としてドロップアウトしなよ。外国に逃がしてアゲル」 「はぁ?いや。なんで!?」 「戦力にならないし、人質にでもなられたらコマル。だから、安全なところで…」 「いやいやいや!絶対にいやだ!」 俺は反対した。ロキを魔王に人質にとられて、俺だけドロップアウト?冗談じゃない。格好悪すぎる。焦っているとベリアルに睨まれた。 「っていっても、ペアもいないのにどーする気なんデスカネ?」 「探すさ!」 「探してるあいだに、悪魔軍に捕まるカモネ?」 「いや!それでも!!」 ベリアルは酒を飲んだ。泡立つ聖杯という名前の酒だ。 「フーン?腹は座っているって言うワケ?」 「あぁ!」 「なんでもするってワケ?」 「あぁ!くどいな!俺がロキを助けるんだよ!」 ベリアルは息をふーっと吐きながら、タロットを7枚伏せた。上に2枚、下に2枚、真ん中に3枚。俺は促されるままに、真ん中の一枚を返した。そのカードには風車の絵が書いてあって、「運命の輪」と書いてあった。 ベリアルはそれを見て、こう言った。 「じゃぁ、アタシと組みマショ。」 「はぁ?」 「アタシもパートナー探してたのよ、ワタリニフネ」 俺の顔は固まった。絶対に嫌だ。最初に会ったときは死神のカードを投げつけてきたくせに、なんてことを言いやがる。 「嫌そうな顔シテ、まったく、察しの悪いガキデスネェ」 ベリアルはカードを片付けて帽子を脱ぎメガネを取った。 「化粧してマスケド、顔もルキと同じだし、違和感ないと思うケド?」 ベリアルは鏡に合わせたように、ルキと同じ髪型をしていた。 俺はもう、断る理由もみつからなくて、投げやりな気持ちになった。 「俺が、剣やるから。」 「はあ、アタシの方が強いんだから、あたしが剣デスヨ?」 「はぁ!?盾なんかやったことねえよ!絶対やだ!」 しばらく睨み合った後、ベリアルは舌打ちした。 「じゃあ…盾ナシで剣2刀で行きマスカ…」 「え、そんなのアリなの?」 「できないことはナイ…と思いマス。ギリギリですケドネ。」 ベリアルは手に持っていたタロットをパラパラと上から下に流して1枚ひいた。チラっとみえたそれには「魔術師」と書いてあった。
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