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星なんて、まるで興味ない。
なのに、コータの叔父さんと叔母さんのお節介で、山小屋まで連れて行かれることになった。しかも、コータ抜きで。
なんで、この俺が、星のおじさんと二人で、こんなところまで来ることになったのか。考えるだけで腹立たしい。なにしろ寒い。昼でも十分寒いのに、夜はさらに冷えこむ。このまま、外で寝こけてしまえば凍死間違いなし。
心の中でさんざん愚痴を吐きまくりつつ、ぼんやり見上げた空には冬の星座がまたたいていた。
「あそこにある、真ん中の三ツ星が見えるかな。オリオン座だ」
「ああ」
インドアで引きこもりで学のない、星座にはまるで詳しくない俺でも、オリオン座くらい知ってる。
「一太くんは、ベテルギウスを知ってるかい?」
「え」
星のおじさんの言葉が唐突すぎて、とっさに聞き返す。
「オリオン座の、左上に見える赤い一等星。あれが、ベテルギウス。おおいぬ座のシリウス、こいぬ座のプロキオンと並ぶ、冬の大三角の一つだ。ベテルギウスはね、いまはすごく明るいけど、近い将来には見えなくなるって言われてるんだ」
「どういう、ことですか」
「星の一生ってわかるかな。いまのベテルギウスって、人間で言えば、かなりのおじいちゃんでね。そろそろ寿命で、超新星爆発を起こしてもおかしくないんだ」
「超新星……?」
「ベテルギウスってのは、太陽よりもずっと大きな星でね、そういう星は超新星爆発を起こす。核融合反応が止まった時に、重力崩壊で起こる大爆発だ」
「はあ」
「つまりね、少しずつ縮んでから、どんどん膨らんで、ドカンと爆発して明るくなる。そのあとは、うんと暗い星になる。地球からは、肉眼で見えなくなるくらいにね。だから、オリオン座の形も変わってしまう」
星のおじさんの話は浮き世離れしていて、現実味が薄かった。
オリオン座の形が変わる? そんなの、彗星が地球に激突するくらい、想像がつかない。太陽も月も、東から昇って西へ沈む。毎日繰り返される当たり前のことだろ?
「いや、もしかしたら、もうすでに爆発してるかもしれないんだ。ベテルギウスの光が地球に届くまでに、大体640年ぐらいかかる。いま見えているベテルギウスは、640年前の姿だからね」
だから、なんだ。
宇宙はとてつもなく広くて、人間はちっぽけで、人の一生なんてあっという間に終わってしまう。
それが、どうした。
けれど、星のおじさんは、飄々とした口ぶりで続ける。
「見えなくなっても、なくなるわけじゃない。そこに、かつてベテルギウスだったものがある。昔のベテルギウスは、いまもベテルギウスだよ」
夜空には無数の星があるが、どこでも同じように見えるわけじゃない。
ここからは見える暗い星も、実家からは見えないのだろう。
自分がどこに立っているかで、見え方は変わる。
「世間から見えなくたって変わらない。いなくなったと思われても、別にいいじゃないか。君は君だ。どこにも、いなくなっていないよ」
他人から投げつけられる言葉が苦しかったんじゃない。
無遠慮にかけられた心無い言葉を、何度も反芻する自分が嫌だった。
だって、本当のことだから。
そうやって、世間のものさしに、自分のものさしを合わせてしまうから苦しかった。
「うちの初孫もね、一太っていうんだ。同じ名前。だから、なんとなく覚えていた」
星のおじさんは目を細めて、空を見上げている。望遠鏡ももちろん備えてあるけど、肉眼で見る星が一番きれいで好きなんだと言って笑った。
「……俺、俺は、その、」
胃の腑の底から、熱いものが湧き上がってくる。
言葉にして吐き出したいのに、震える唇からはなにも言えなかった。
~fin~
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