月のシルビア

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月のシルビア

そのウサギは、銀色の美しい耳としっぽをもっていたので、シルビアと呼ばれていました。シルビアは息子に終わらぬ命を月に願った罰として、不死の呪いを掛けられて終わらぬ生を月で過ごしているのです。 シルビアは、自分と同じく、罪を償う子どもたちの世話をして過ごしていました。ゴードンもその1人です。 「おい、シルビア!お前また地球に行って何か美味しいものを食べてきただろう!」 シルビアは困った顔で言いました。 「美味しいご飯の研究をしているのよ。今度、ゴードンにも作ってあげるからね」 「ふん、こんな痩せた土地じゃあ、ロクに作物もとれやしない。期待してないから別にいいよ」 「そう言わないで。あなたもたくさん食べれば大きくなるかも」 「ばっかじゃないの。成長しないのも罰なのさ。俺はどれだけ生きようと、大きくなれない。背が高くなりますようにって月に願った罰なのさ」 いじわるばあさんがやってきて言いました。 「ふん、それだけじゃないだろう。あんたは背が低いのを両親が悪いと言って、親を変えてくれと月に願った。その罰でここにいるんだろう」 ゴードンはチッと舌打ちした。なにせ、いじわるばあさんはなんでも知っているのだ。 「シルビア、いつまで月に居座るつもりだい、お前の刑期はとうに終わっているだろう。さっさと天国にでも地獄にでも行って、転生するのが本来だ。あんたがいると、贖罪がままならなくて、迷惑だ。さっさと出てお行きよ。すぐそこに、ツリーマンが迎えに来ている」 枯れ木が人間のような手足を生やして歩いて来ました。 どうやら、本当に月と別れなければいけないようです。それで、シルビアは、ゴードンに、「大好きよ。私はあなたが大好き。だから、どうかいつまでもそのままで、その優しさを失わずにいてちょうだい」とお別れを言い、ツリーマンについて行きました。 月に住んでいるのは、実はうさぎだけではありません。ゴードンには犬の耳がついているし、おばあさんには狸が多いです。商人をしていた人には狐が多く、豚や牛、コウモリもいます。 シルビアはあの懐かしい蕎麦畑を眺めました。月の土地は痩せているから、米や小麦は育たなくて、せいぜい蕎麦ぐらいしか採れないのです。蕎麦ばかりではいくら食べても大きくなれず、それで月の住人は皆一様に、背が低いのです。 蕎麦畑の白い花を見て、シルビアは世話をした子どもたちのことを思い出しました。天国に旅立つとき、一緒に行こうと誘ってくれた子どももいました。でも、そういうときに限って新しい子どもが送られてくるので、シルビアは断っていたのです。 ゴードンは芯の強い子だから、いじわるばあさんに唆されて地獄に堕ちることはきっとないでしょう。
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